MEDICAL PHOTONICS 2010

メディカル・フォトニクス特別セミナー講演内容詳細

【MP-1】最新のレーザー手術 下肢静脈瘤に対する血管内レーザー治療 近年、下肢静脈瘤の根治手術であるストリッピング手術に替わり、血管内治療が行われるようになった。1999年ラジオ波による血管内治療がFDAに認可されたのに引き続き、レーザーによる血管内治療が2001年にFDA認可され欧米で広く普及するようになった。
血管内レーザー治療(EVLA)は超音波下穿刺による経皮アプローチにて膝周囲の大伏在静脈よりイントロデューサーシースを挿入し、超音波観察下にTumescent local anesthesia(TLA麻酔)をGSV周囲に浸潤する。次にレーザーファイバーををSFJ近傍に誘導、ファイバーを0.5-2mm/sで牽引しながらレーザーを照射し静脈を焼灼・閉鎖する。術後は弾性ストッキングを着用させる。
当初、下肢静脈瘤に対するEVLAは低侵襲治療として注目されていたが、再発や治療後の大腿部疼痛、皮下出血が高頻度に認められ問題となった。当初はおもにヘモグロビンに吸収される波長810 nmのレーザーが使用されていたが、これらの合併症を防ぐために、血管壁に多く含まれる水に吸収され、より少ないエネルギーで血管に傷害を与えることができる水に特異的な波長980、1320、1470および2000 nmのレーザーが開発・使用されるようになった。また、照射条件として照射熱量(linear endovenous energy density: LEED)が注目されており、70-100J/cmのLEEDが必要と言われている。

御茶ノ水血管外科クリニック
広川 雅之 氏

Ho:YAGレーザーによる前立腺肥大症の治療 前立腺肥大症は高齢男性に発症する排尿困難をもたらす疾患である。
外科的な治療として低侵襲な内視鏡手術である経尿道的前立腺切除術(以下TURP)が登場以来現在でも最もスタンダードな術式として確立している。
この優れた術式にも還流液に非電解質溶液を使用するため手術時間が長くなると低ナトリウム血尿に注意する必要がある、単位時間あたりある程度の出血がある、という問題があり大きな前立腺肥大症には開腹手術が適応とされている。
このため、より低侵襲な術式としてさまざまな新しい技術が生まれ、そのうちレーザーを使用した治療はおもにネオジウムヤグ(Nd:YAG)レーザー、半導体レーザーを用い1980年代後半から1990年代前半にかけ開発された。
使用するレーザーの特性から熱による組織の変性により肥大腺腫の縮小を期待するものでTURPに匹敵するような効果が得られるものはなく、薬物療法と外科的治療(TURP、開腹手術)の中間の位置付けとされてきた。
Ho:YAGレーザーは水中での吸収率が高く5mm程度離れると影響がなくなる、色素や血管分布に関らず全ての組織において1パルスあたり0.4mm以下の到達深度であり周囲組織への熱侵襲も少ない。
また水中では照射距離により切開、蒸散、止血が可能で特に泌尿器内視鏡手術に適している。
1998年Gilligらにより前立腺肥大症に対するホルミウムレーザー核出術(HoLEP)が確立された。
この新しい内視鏡手術では出血が少なく低ナトリウム血症の心配もないため腺腫の大きさにかかわらず安全に内視鏡手術ができるようになった。
手術映像を交え同術式を紹介する。

医療社団法人相和会 渕野辺総合病院
設楽 敏也 氏

半導体レーザーによる肺がんの光線力学的治療 国民の高齢化に伴って医療費は増加の一途を辿っているが、医療費を今後如何に抑制するかがわれわれに課された課題である。
然るに国民は安全で、低侵襲、高精度そして安価な医療を望むが、この要望の達成のためには更なる医療費が必要になる。
わが国の総医療費は35兆円、GDPに対する比率は8.1%で世界平均を大きく下回っている。
せめて世界の平均までは値上げる必要があるが、他方今後の医療のあり方を十分に検討する必要がある。
無駄な医療を廃し、適切な医療を施せば医療費の抑制が可能になるかもしれない。
光線力学的治療PDTとはPhotodynamic Therapyの頭文字をとった名称である。
化学物質が光を浴びると化学物理反応を惹起することは良く知られており、例えば時計の文字盤やサインペンなどは光に曝露されると蛍光を放出する。
このような現象を医療に応用するのがPDTである。
医学への応用が可能になったのは、1960年のLaserの発明、1961年のヘマトポルフィリン誘導体(腫瘍親和性光感受性薬剤)の開発が大きなきっかけになった。
1978年にDr. T. J. Doughertyが進行乳がんの皮膚転移病巣にPDTしたのが最初の臨床例であった。
内視鏡を使ったPDTは1980年にわが国で行われ、世界最初であった。
その症例は早期肺がんで完治したことから世界各国で注目され、世界へ普及した。わが国では世界に先駆けて薬事承認が下り、早期の肺、食道、胃、子宮頚部がんに対するPDTが1994年に保険収載された。
当時の薬はフォトフリンでレーザー装置はエキシマダイレーザーであったが、現在ではレザフィリンに進化し、レーザー装置はダイオードレーザーに代わった。
ビデオデッキ位に非常に小さくなり、価格も5分の1くらいになった。
治療は一層簡便化され、一般の病院でもこの治療が可能となり、一層の普及が期待される。
PDTが適応となる早期肺がんは太い気管支に発生し、従来の治療法では手術が第一選択で、摘出範囲は大きく、術後の肺機能の低下は避けられなかったが、PDTでは手術を避けられるので肺機能の障害は避けられる。高齢社会におけるQOLを維持できる治療法として高く評価ができる。
レーザー機器と腫瘍親和性光感受性薬剤の更なる開発により、更に低侵襲性、安全性、高精度、安価な治療の実現が期待される。

新座志木中央総合病院/国際医療福祉大学大学院
加藤 治文 氏

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