-分光

2016年11月15日(火) 13:10-16:20
【-1 ラマン分光の最新手法と実際


●受講にあたって

ラマン分光法は、試料の構造分析の基本的手法のひとつとして学問分野のみならず、企業での研究においても注目を集めている。
本セミナーでは、ラマン分光の基礎から、大学および企業での最先端の応用例までを3名の講師が概説する。

ラマン分光法の基礎と先端応用

学習院大学 岩田 耕一
 ラマン分光法は、現在の科学・技術にとって不可欠の分光法である。ラマン分光法は、測定対象の物質の構造について分子レベルでの豊富な情報をもたらしてくれる。測定に光を使うので、試料を処理せずに「そのまま」の状態で測定することができる。サブマイクロメートルの空間分解測定やピコ秒の時間分解測定もできる。ラマン分光法は、実験者にとっての自由度がきわめて大きい測定法でもある。実験の目的に応じて独自の測定法を自由に工夫することはそれほど難しくない。測定者にとって「楽しい」分光法である。
 本講演では、それぞれの測定者が最善のラマン分光法を実現するために必要となるラマン分光法の原理と測定法の基礎をはじめに解説する。市販の装置を使ってラマン分光測定を行う場合でも、その装置の性能を最大限に引き出すために、あるいは購入時に適切な機種選定を行うために、分光法の基礎を理解しておくことは重要である。
 講演の後半では、高速の時間分解ラマン分光測定や非線形ラマン分光測定について実例をもとに解説する。時間分解ラマンスペクトルの測定で数ピコ秒の時間分解と数cm-1の波数分解を両方とも実現しようとすると、励起光としてフーリエ変換限界に近い光パルスを用いる必要がある。高効率の非線形ラマン分光測定では、フェムト秒の白色光とピコ秒の単色光を同期させて試料に照射する。このような光を準備してラマン分光測定を行うことで、他の方法からは得難い貴重な情報を得ることができる。
難易度:初級程度(大学専門程度、基礎知識を有す)

ラマン分光顕微鏡とその生命科学への応用

大阪大学 藤田 克昌
 光が物質に散乱された際に生じる波長シフトの効果(ラマン散乱)を利用した分析法(ラマン分光法)は、強力な物質分析法として基礎科学から産業用途まで幅広く活用されている。ラマン分光法は分子や結晶格子の振動を検出することにより観察対象に含まれる物質の情報を取得するため、多様な材料、物質の分析に利用でき、その利用範囲は物質科学、半導体工学から、基礎生物学、創薬、医学までと広い。しかし、ラマン散乱の発生効率は非常に低く、計測に時間がかかるため、計測を繰り返す必要があるイメージングや生体等の時間変化を示す試料の観察にはラマン散乱の利用は不向きとされてきた。近年になり、高品質なレーザー光源や高感度な光検出器、優れた光学フィルターが登場し、微弱なラマン散乱により効率良く観察することが可能になり、様々な分野においてラマン分析イメージングをベースととした新しい分析方法が登場している。
 本講演では、ラマン分光法と顕微イメージング技術を融合させたラマン散乱顕微鏡技術について、その原理と装置について概述し、細胞分析や医療への応用に向けた基礎研究を中心に最近の研究成果を紹介する。
難易度:初級程度(大学専門程度、基礎知識を有す)

日用品の研究開発に活かされるラマン分光

花王(株) 尾藤 宏達
 日用品の研究開発において、今まで以上の効果を発現させたり、新しい切り口を見出したりするためには、商品が使われて機能が発現する場面を“ありのまま”捉えることが重要と考えています。前処理なく、非破壊・非侵襲で、豊富な分子の情報を取得できる振動分光法、特にラマン分光法は、“ありのまま”を捉えるための強力な手段の1つです。
 本講演では、日用品の研究開発にラマン分光法が活かされている例として、ヒトの皮膚・毛髪や微生物などの生体への応用事例を紹介します。
難易度:初級程度(大学専門程度、基礎知識を有す)

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2016年11月16日(水) 09:30-12:30
【-2 レーザ誘起ブレークダウン法(LIBS)の基礎と工業応用展開


●受講にあたって

レーザ誘起ブレークダウン法(LIBS)の原理、特徴、課題を開設するとともに、海洋探査、鉄鋼プロセス、火力・原子力プラント、リサイクルなどへの応用例を紹介する。

レーザー誘起ブレークダウン分光法とその水中その場元素分析への展開

京都大学 作花 哲夫
 レーザー誘起ブレークダウン分光法(LIBS)は、パルスレーザー照射によって生成するレーザープラズマの原子発光スペクトルによって元素を定性・定量分析する方法である。講演では、LIBSの原理を簡単に述べ、発光分光分析に適したレーザープラズマを水中に作る方法について、演者の行ってきた研究を紹介する。最後に深海底でのその場元素分析への応用について述べる。
 一般のQスイッチパルスレーザー(数ns〜20 ns)の照射によって水中に生成するプラズマは、水の慣性のために瞬時に膨張できず、小さな体積に閉じ込められる。この閉じ込め効果のためにプラズマは高密度な状態になり、低密度で希薄なプラズマから得られるような先鋭な発光線スペクトルを得ることが困難である。本講演では、100 ns程度の長いナノ秒パルスを用いることで先鋭な発光線スペクトルが得られることを中心に、レーザー照射方法のスペクトルへの影響について詳述する。
難易度:初級程度(大学専門程度、基礎知識を有す)

レーザ誘起ブレークダウン分光法及び関連技術の原子力分野への応用

日本原子力研究開発機構 若井田 育夫
 持続可能なエネルギー源で、超長期に及ぶ放射性廃棄物の管理抑制をめざした次世代の核燃料サイクルでは、長寿命核分裂性核種や放射性廃棄物を含有し、同時にこれらの消滅処理が可能な燃料(低除染マイナーアクチノイド含有燃料)が有望視されている。しかし、高い放射線の影響から従来法による管理分析が困難なため、核燃料物質の国際的な平和利用推進の観点から、新たな原理に基づく迅速な分析法の開発が必要とされている。一方、東京電力福島第一原子力発電所の廃炉では、事故炉内から核燃料物質や構造体の溶融混合物(燃料デブリ)を取り出すという、世界的に類例のない作業の安全かつ円滑な実行が求められており、高放射線、水中又は高湿度、狭隘という過酷な環境下において、燃料デブリの位置や状況を把握するための遠隔その場観分析技術の開発が不可欠となっている。しかし、現在までに、宇宙線の透過像観測から燃料集合体の溶融落下が示唆されているものの、炉内デブリの観察・分析手法については、具体的に提示できていないのが現状である。
 光をプローブとし、光で分析するレーザー遠隔・迅速・非接触・非分離のその場分析手法は、これらの要求に答え得る手法の一つであり、その中でも、レーザー誘起ブレークダウン分光法(LIBS)は、簡便・迅速な計測手法として有望視されている。講演では、核燃料物質中のウラン・プルトニウム識別と半定量分析、薄膜状液体を用いた溶存元素分析、そして事故炉内でのデブリ分析を想定した、耐放射線性光ファイバー利用LIBSによる過酷環境下遠隔分析技術開発の現状について紹介する。
難易度:入門程度(大学一般教養程度)

レーザ誘起ブレークダウン法の電力分野への応用

電力中央研究所 藤井 隆

レーザー3DスキャンとLIBS法によるステンレス鋼の相互分離の試み

東北大学 柏倉 俊介
 元素分析手法として1秒間に数十ポイント以上の高速応答性を有するレーザー誘起プラズマ発光分光分析法(Laser-Induced Breakdown Spectroscopy: LIBS)は、大気圧下で試料前処理なしに実行できるなど多くの利点を持つ。
 本講演はこのLIBSをステンレス試料の相互判別に用い実証機レベルでその有用性を評価したものであり、ベルトコンベアと一センサー、試料の水平方向位置と鉛直方向高さを瞬時に判別するレーザー3DスキャナーとLIBSシステムについてはパルスエネルギー1mJ/pulseのNd:YAGレーザーの基本波(1064nm)をコンベア上に流れる試料に逐次照射し、得られたプラズマからの発光をCzerny-Turner型のイメージ分光器で分光してCCDラインセンサーにて検出するものを組み合わせて鋼試料中のCr, Niの有無、及びステンレス試料においてはその特性発現の要となる第三元素(Ti, Nb, Al, Cuなど)の有無の迅速検出を行った。Cr及びNiについては有無の評価は可能であったが母相の鉄からの非常に多数の発光線との分光干渉の影響が大きく十分な定量は不可能であった。詳細については講演時に報告する。

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