分光セミナー

2019年11月12日(火) 09:30-12:20
【-1 金属ナノ構造で操る光―メタマテリアルとプラズモニクスの新展開―

オープニング

静岡大学 川田 善正 氏

メタマテリアルとプラズモニクスの基礎

大阪大学 高原 淳一 氏
メタマテリアルとプラズモニクスの分野は2000年ごろから20年間にわたり論文数の増加が続き、現在でも世界的にみて活発に研究がなされている。この分野に興味を持つ初学者はどこから手を付けたらよいか迷うのではなかろうか?この二つは別の分野であり、発展はそれぞれ異なる方向性をもつが、歴史的にみると互いに深く関係しながら発展を続けてきた。本講演では初学者のためにメタマテリアルとプラズモニクスの基礎となる考え方について述べる。
メタマテリアルは光の波長より十分小さなサイズのメタ原子(光の人工共振器)を3次元的に配列して構成される有効媒質である。これを用いると天然素材の屈折率の範囲を超えて、あらゆる値の屈折率をもつ光学媒質を実現できる。負屈折率(negative refractive index)すらも実現できる。メタ原子を2次元に配列したものはメタサーフェスと呼ばれる。メタサーフェスは散乱(吸収を含む)により光を制御する技術といえる。
一方、プラズモニクスは「金属のナノフォトニクス」である。金属は誘電率が可視光域において負の値をとる典型的な負誘電体(negative dielectric)である。負誘電体によって光の回折限界を打ち破りナノ空間への光の局在や伝送が可能となる。しかし、金属材料はオーム損失による光の吸収がさけられず、巨大な損失がナノフォトニクスへの展開を阻んでいる。最近では大きな損失を逆に利用して完全吸収体へ応用され成果が得られている。応用上重要な電場増強効果もナノ空間への光の局在により達成される。
難易度:入門程度(大学一般教養程度)/初級程度(大学専門程度、基礎知識を有す)

プラズモン共振器を利用した中赤外光源/検出器

(国研)物質・材料研究機構 宮崎 英樹 氏
中赤外(本講演では波長2.5~25μmと定義)は環境計測やセキュリティに重要な波長帯であるが、意外に古い原理や材料に依存している。例えば、実際に利用されている光源は今なおほぼすべての場合、熱放射光源(電球)である。また、波長5μm以上の高感度検出器は水銀やカドミウムを含んだものに限られ、毒性の問題から代替材料が求められている。本講演では、適切な形状・寸法の金属ナノ構造を用いた光波制御技術であるプラズモニクスを利用すると、中赤外域の光源や検出器を変革できることを示す。
二酸化炭素センサは2つの波長の中赤外光の透過強度比から濃度を求める。ところが、熱放射光源から発せられる幅広い波長の光から必要な2波長を取り出し、大半の光は廃棄しているため、現在のセンサの電力効率は著しく低い。本研究では、特定の波長の中赤外光にチューニングしたプラズモン共振器を組合せ、必要な2波長だけを熱放射する高効率光源を開発した。
水銀等を用いない中赤外検出器として、古くから量子井戸赤外検出器が注目されてきたが、効率の低さから応用例は限られていた。本研究では、プラズモン共振器に量子井戸を挟み込むことにより感度を劇的に向上し、水銀を用いる従来の検出器に迫る感度を持った量子井戸検出器を実現した。
本講演では、このような大きな効果を持ったプラズモン共振器の設計方法から、実際のデバイスの作製方法、特性まで紹介する。
難易度:中級程度(大学院程度、ある程度の経験を有す)

紫外プラズモニクスの基礎と光電子デバイス応用

静岡大学 小野 篤史 氏
紫外光領域は電子遷移エネルギー帯に相当し、多くの分子が吸収を示す。可視光領域において透明な生体試料も紫外光を吸収し、自家蛍光を発する。工業的には、紫外光照射による光化学反応を利用し、半導体リソグラフィーなどに用いられている。その他、照明技術や有機材料の表面改質、殺菌、共鳴ラマン、光電子放出など紫外光領域特有の様々な光技術に用いられている。近年、高出力かつ高安定な紫外レーザーの開発に伴い、これら紫外光領域の光技術に関する研究開発が盛んになってきた。
本講演では、金属ナノ構造を用いて紫外光を局在化する紫外プラズモニクスの光技術について紹介する。可視近赤外光領域でよく用いられているプラズモニクスを紫外光領域に展開するために考慮するべきことについて解説する。また、紫外域プラズモン増強場を利用した蛍光増大や、生体細胞の高感度観察、光電子放出効率の向上など、紫外光領域特有の光電子デバイス応用技術について、我々の最新の研究成果を中心に紹介する。
難易度:初級程度(大学専門程度、基礎知識を有す)

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2019年11月12日(火) 13:10-16:00
【-2 分光スペクトルデータのケモメトリックス・機械学習で何ができるのか?

オープニング

大阪電気通信大学 森田 成昭 氏

Pythonを用いた分光スペクトルデータのケモメトリックス・機械学習

大阪電気通信大学 森田 成昭 氏
分光スペクトルデータには測定試料の化学情報や物性情報といった様々な情報が豊富に含まれているが、それらを正確に読み取ることは容易ではない。機器分析データから化学情報を紐解く手法として、多変量解析に基づくケモメトリックスの概念が生まれ、また、データサイエンスの分野では、人工知能・機械学習・深層学習といった手法が盛んに用いられている。本講演では、機器分析の経験はあるが、ケモメトリックスや機械学習の経験がない者、あるいは初心者を対象とし、Pythonを用いて実践的に機器分析データを解析するためのテクニックや応用事例を紹介する。PythonにはAnacondaのような無料パッケージがあり、 www.anaconda.comからダウンロードすることができる。主成分分析(PCA)やPLS回帰といったケモメトリックスのツールは機械学習ライブラリであるscikit-learnに実装されており、これはAnacondaに含まれている。また、Pythonによる機械学習の教科書が日本語で数多く出版されており、独学は容易である。今回の講演をきっかけにして、機器分析データのケモメトリックスや機械学習を始めてみてほしい。講演者は日本分光学会においてスペクトル解析部会を運営しており、このような機会を通して専門家とユーザーの接点を提供したいと考えている。
難易度:入門程度(大学一般教養程度)、初級程度(大学専門程度、基礎知識を有す)

農業・食品分野における分光法活用:ケモメトリックス・機械学習とその注意点

(国研)農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構) 蔦 瑞樹 氏
近年、AIや機械学習といったキーワードがニュースに毎日登場し、あたかも全ての問題を解決する魔法であるかのように報じられることも多い。しかし、AIも機械学習も単なる「手段」や「道具」に過ぎず、使い方を誤れば成果を出せなかったり、試験運用で成功しても本番で大失敗したりという「罠」に陥いるリスクがある。
そこで本講演では、AIや機械学習に限らずデータを解析する上で踏襲すべき「作法」と、陥りがちな「罠」について、「目的変数の設定」「データ収集」「予測モデル作成」の3つの側面から紹介する。また、分光法を活用するための手順のうち、どの段階が最も重要なのか、また試行錯誤が許されるのはどこなのかについて、私見を述べてみたい。
さらに、農業・食品分野における分光法の活用事例として、近赤外透過スペクトルに基づきリンゴの内部褐変発生を事前に予測する研究を紹介する。本研究では、褐変発生を予測するモデルの作成に、定番のケモメトリックス手法であるpartial least squares (PLS)判別手法と、比較的新しい機械学習アルゴリズムであるアンサンブル学習を用いた。これらの手法について、予測精度と「なぜ予測が可能になったのか」というモデルの解釈性の観点から比較し、両者のメリット・デメリットを論じる。
難易度:一般的(高校程度、一般論)、入門程度(大学一般教養程度)

ケモメトリックス・機械学習による医薬品製造工程の Smart Process Control

武蔵野大学 服部 祐介 氏
薬学・製薬分野に限らず様々な分野において、分光法は古くから定量分析に用いられていが、近年の需要として、試料に前処理を加えることなく、非破壊的に分析する技術が求められている。その背景には、実際の製造物と分析に用いられた試料が同一ではないことによる、不確かさの存在が挙げられる。特に食品や医薬品などは、消費者の健康に直結することから、その不確かさの解消が強く望まれている。その非破壊分析技術の一つとして、近赤外スペクトルのケモメトリックス・機械学習による分析法が注目され、普及しつつある。薬学・製薬分野においては、医薬品の製造工程を近赤外分光によりモニタリングを行い、分光データのケモメトリックス・機械学習による定性・定量分析をリアルタイムに行うことで、製造工程を適切に管理・制御する試みがなされている。このような技術は、Process Analytical Technology(PAT)と呼ばれ、モニタリングデータから製造物の品質を保証するだけでなく、製造工程の最適化による自動化・連続化にも重要な役割を担っている。また、市場に流通している医薬品の真贋・良不良を判別するための非破壊分析技術に対する需要も高まっている。近赤外分光とケモメトリックス・機械学習による非破壊分析は、このような医薬品の判別にも有効であることから、今後の応用が期待されている。本講演では、製造工程の最適化と真贋判別を目的として、分光データのケモメトリックス・機械学習を応用した事例について紹介する。
難易度:初級程度(大学専門程度、基礎知識を有す)

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[ 特定商取引法に基づく表記 ]



高原 淳一

大阪大学

大学院工学研究科 精密科学・応用物理学専攻 教授

1990年 大阪大学 基礎工学部電気工学科 卒業
1992年 日本学術振興会特別研究員(DC1)
1995年 大阪大学大学院基礎工学研究科 物理系専攻修了 博士(工学)
1995年 大阪大学 基礎工学部電気工学科 助手
2003年 大阪大学 大学院基礎工学研究科 助教授
2010年 大阪大学 大学院工学研究科 精密科学・応用物理学専攻 教授
2010年 大阪大学 フォトニクス先端融合研究センター(PARC) 教授
2017年 大阪大学 工学研究科附属フォトニクスセンター 教授(兼)

宮崎 英樹

国立研究開発法人 物質・材料研究機構

機能性材料研究拠点 プラズモニクスグループ グループリーダー

1989年東京大学大学院工学系研究科産業機械工学専攻修士課程修了.同年浜松ホトニクス(株)入社.1994年東京大学先端科学技術研究センター助手.1999年金属材料技術研究所特別研究員.2000年科学技術振興事業団さきがけ研究員.2001年より物質・材料研究機構.光パラメトリック発振器の開発,走査電子顕微鏡下でのマイクロマニピュレーション技術の開発,フォトニック結晶,プラズモンナノ共振器,メタマテリアルの研究に従事.博士(工学).応用物理学会, 日本光学会, Optical Society of America, 日本赤外線学会, レーザー学会, 日本物理学会, 日本機械学会各会員.

小野 篤史

静岡大学

電子工学研究所 准教授

2006年 大阪大学大学院工学研究科応用物理学専攻 博士後期課程修了 2006 年 独立行政法人理化学研究所 基礎科学特別研究員 2009年 静岡大学若手グローバル研究リーダー育成拠点 特任助教(テニュアトラック) 2013 年 同大学大学院工学研究科電子物質科学専攻 准教授 同大学電子工学研究所兼任

森田 成昭

大阪電気通信大学

教授

1996年 東京農工大学 工学部 卒業
2001年 東京農工大学大学院 生物システム応用科学研究科 博士後期課程 修了,博士(学術)
2001-2003年 北海道大学 触媒化学研究センター 博士研究員
2003-2007年 関西学院大学 理工学部 博士研究員
2007-2012年 名古屋大学 エコトピア科学研究所 助教
2012-2017年 大阪電気通信大学 工学部 准教授
2017- 現職
2011年 高分子学会 旭化成賞
2011年 近赤外研究会 NIR Advance Award
2013年 日本分析化学会 「分析化学」 論文賞
2015年 Chemometrics in Analytical Chemistry, Outstanding Young Scientist Award

森田 成昭

大阪電気通信大学

教授

1996年 東京農工大学 工学部 卒業
2001年 東京農工大学大学院 生物システム応用科学研究科 博士後期課程 修了,博士(学術)
2001-2003年 北海道大学 触媒化学研究センター 博士研究員
2003-2007年 関西学院大学 理工学部 博士研究員
2007-2012年 名古屋大学 エコトピア科学研究所 助教
2012-2017年 大阪電気通信大学 工学部 准教授
2017- 現職
2011年 高分子学会 旭化成賞
2011年 近赤外研究会 NIR Advance Award
2013年 日本分析化学会 「分析化学」 論文賞
2015年 Chemometrics in Analytical Chemistry, Outstanding Young Scientist Award

蔦 瑞樹

(国研)農業・食品産業技術総合研究機構 食品研究部門

上級研究員

2004年東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了(博士(農学))
2005年 (独)食品総合研究所研究員 採用
2009年 (独)農研機構食品総合研究所主任研究員
2009-2011年 日本学術振興会海外特別研究員(ベルギー・ルーヴェンカトリック大学に留学)
2016年 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構食品研究部門に改組, 現在に至る
この間、近赤外分光法, 蛍光指紋, 画像計測等による食品・青果物の非破壊品質評価, データマニングに従事.

服部 祐介

武蔵野大学

薬学部・薬学研究所 講師

2005年3月 東京農工大学大学院 生物システム応用科学研究科 博士後期課程修了(博士(学術))
2005年4月-2007年3月 理化学研究所光バイオプシー開発研究ユニット 協力研究員
2007年4月-2010年3月 東京女子医科大学先端生命医科学研究所 博士研究員
2010年4月-2014年3月 武蔵野大学薬学部・薬学研究所 助教
2014年4月より現職