宇宙・天文光学 特別技術セミナー

2023年04月20日(木) 09:30-12:25 アネックスホール F203
【SA-2 JAXA(つくば)の研究者が語る宇宙コース

先進光学衛星「だいち3号」(ALOS-3) ~広域・高分解能センサの開発結果と運用の最新状況~

宇宙航空研究開発機構 第一宇宙技術部門 先進光学衛星プロジェクトチーム 研究開発員 早藤 麻美 氏

※H3ロケット打上げ結果に伴い、講演内容が変更になる可能性がございます。(3月8日)

先進光学衛星ALOS-3「だいち3号」は、陸域観測技術衛星ALOS「だいち」(2006~2011年)の光学ミッションを引き継ぐ地球観測衛星である。

2022年12月現在、衛星は2023年2月に種子島宇宙センターからH3ロケットで打上げられる予定である。
「だいち3号」の主要ミッションは、日本と世界の陸地を継続的に観測し、蓄積した画像や発災時の画像を防災・災害対策に活用すること、また高精度な地図(地理空間情報)を整備・更新することである。

それらに応えるため、JAXAでは新たに広域・高分解能センサ(WISH: WIde-Swath and High-resolution imager)を開発した。WISHは広い観測幅(直下70km)とサブメータ級の地上分解能(直下80cm)を併せ持つ、世界的にもユニークな特長を持った光学センサである。
これを実現させたのは「だいち」で確立した軸外し3枚鏡光学系技術 (TMA : Three Mirror Anastigmat) に、搭載性を考慮し折り返しミラーを加えた「軸外し4枚鏡光学系」である。同タイプの衛星搭載型光学系として最大級のサイズでありながら、各鏡面やアライメント等、極めて高い精度での開発に成功している。

本講演では「だいち3号」の概要と運用の最新情報、WISHの機能・性能と開発、様々な分野における衛星データの利活用について解説する。
●難易度:入門程度(大学一般教養程度)

GOSAT衛星および航空機による温室効果ガスの都市観測から見えてきたもの

宇宙航空研究開発機構 第一宇宙技術部門 GOSAT-2プロジェクトチーム 主任研究開発員 重藤 真由美 氏
温室効果ガス観測技術衛星GOSAT(Greenhouse gases Observing SATellite)は2009年から14年、また、その後継機であるGOSAT-2は2018年から二酸化炭素(CO2)やメタン(CH4)といった、温室効果ガス濃度の全球観測を宇宙から行っている。

GOSATシリーズでは太陽光の地表面反射による、短波長赤外だけでなく地球の熱放射の両方を利用することで、対流圏高度約12kmを更に下層(0-4km)と上層(4-12km)の2層の部分気柱濃度に分離することが可能となり、発生したCO2を高濃度な下層情報として捉えることができる。
これらは、フーリエ分光計による広い観測波長の確保と高い波長分解能を得るためのセンサの最適設計と、打上げ後の校正検証活動による観測値の精度向上により成し遂げられた。本講演では、GOSATの観測結果によるメタンの排出源別排出量や、都市集中観測の結果を昨年COP27が開催されたエジプトのカイロを例に報告する。

また、衛星からの観測に加え、2020年度からGOSATシリーズの観測技術を応用したJAXAの観測機器をANAの旅客機内に持ち込み、大都市における温室効果ガスに加え、化石燃料を燃焼させる際にCO2と共に生じる二酸化窒素(NO2)や、CO2吸収に係る植物光合成時のクロロフィル蛍光等の、詳細な濃度分布を回折格子による分光で面的に観測する実験(GOBLEU(Greenhouse gas Observations of Biospheric and Local Emissions from the Upper sky))の概要紹介も行う。

この民間旅客機からの観測データとGOSATシリーズの高度情報を持つ観測データを組み合わせることで、地球全体を観測する人工衛星だけでは把握が困難であった都市域における人間活動に伴う温室効果ガスの排出量を、交通・産業などの発生源別の評価に挑戦する。
●難易度:入門程度(大学一般教養程度)

JAXA宇宙状況把握(SSA)システムによるスペースデブリ光学観測

宇宙航空研究開発機構 追跡ネットワーク技術センター SSAシステムプロジェクトチーム 主任研究開発員 小田 寛 氏
地球の周りをまわる人工衛星やスペースデブリの数は年々増加し続けており、その衝突リスクは高まっています。JAXA追跡ネットワーク技術センターでは、スペースデブリを観測し、その軌道を把握・管理する宇宙状況把握(Space Situational Awareness: SSA)に取り組んでいます。

JAXA SSAシステムは、低軌道帯のスペースデブリを観測するレーダー、静止軌道帯のスペースデブリを観測する光学望遠鏡(口径1mと50cmの2系統)、これらの観測データから軌道計算やさまざまな解析を行う解析システムで構成されます。
本講演では、JAXA SSAシステムの概要とともに、主に1m望遠鏡によるスペースデブリ光学観測について説明します。

1m望遠鏡はカセグレン焦点(F値3)で、1.2[deg]×2.4[deg]と比較的広いCCD視野を有しています。通常運用では、目的物体の軌道情報に従って望遠鏡を指向・追尾させ撮像し、視野内のガイドスターと目的物体の相対的な位置関係から天球面上での位置を算出します。
この時系列の位置情報データを解析システムに送信し、解析システムにて物体同定処理・軌道決定処理等を行い、目的物体の軌道を把握・管理します。

この他、研究開発段階であるが、光度変動解析により姿勢や回転運動の推定や、多色測光観測による表面物質の推定、低軌道物体の観測等についても紹介します。
●難易度:入門程度(大学一般教養程度)

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2023年04月21日(金) 09:30-12:25 アネックスホール F203
【SA-3 国立天文台を活用する研究者が語る天文コース

EHTで撮影したブラックホール・シャドウ

東京エレクトロン テクノロジーソリューションズ(株) シミュレーション技術開発部 シニアスペシャリスト 田崎 文得 氏
2019年に公開された M87 の巨大ブラックホールに続き、2022年に天の川銀河の巨大ブラックホールの画像が発表されました。
ブラックホールの姿を撮影した望遠鏡は、イベント・ホライズン・テレスコープ (EHT)。世界6か所にある計8台の電波望遠鏡を仮想的につなぎあわせて、超長基線電波干渉計 (VLBI) を構築し、ブラックホール近傍から放射される波長1.3ミリメートルの電波を捉えることで、その姿を撮影することに成功しました。

M87と天の川銀河の巨大ブラックホールの質量は、それぞれ太陽の65億倍と400万倍に相当します。
一方で地球からの距離は、それぞれ5500万光年と2万7000光年です。
ブラックホールの大きさは質量に比例するため、地球からの距離が3桁程度異なる天体でも同程度の見た目の大きさで撮影することができました。

どちらのブラックホールもとても良く似たリング状の構造を示しますが、実は天の川銀河のブラックホールの場合は、ブラックホールが小さいために10時間程度の観測の間に周辺のガスが激しく変動することで、画像化が難しくなるという問題がありました。

本講演では、どのようにして画像化を達成したのか、ブラックホールを画像化することの科学的意義は何なのか、今後どのような研究展開があるのか、などをご紹介します。
●難易度:一般的(高校程度、一般論)

先端光学計測技術で探る光では見えない宇宙の姿: 重力波天文学

国立天文台 重力波プロジェクト 准教授 麻生 洋一 氏
我々の宇宙には、ブラックホールの衝突のように光では観測できない天体現象が多数存在します。これまでの天文学は主に電磁波を用いて宇宙を観測していました。しかし、2015年にブラックホール合体からの重力波が初検出されて以来、重力波という新しい観測手段を用いた天文学が急速に発展しています。
重力波は、重い星などが加速度運動をする際に放出される、時空の歪みが波となって伝わる現象です。

これまでに、ブラックホールや中性子星の合体現象からの重力波が100件ほど検出されています。ブラックホール合体がこんなに頻繁に宇宙で起こっているとは想定されておらず、これは大きな驚きでした。さらに、中性子星の合体からは、宇宙における金やプラチナなどの重元素合成の現場が見えてきました。
その他にも、短いガンマ線バーストの起源解明や宇宙加速度膨張の測定など、重力波天文学の応用範囲はどんどん拡がっています。

重力波が地球に到達すると、時空をわずかに歪めます。その量は、地球と太陽の間の距離が水素原子一個分変化する程度と、きわめて小さいものです。
このような極小の時空の歪みを検出するために、kmスケールの大型レーザー干渉計が使われます。そして量子ゆらぎで決まる究極的な感度を実現するため、量子光学のスクイージング技術など、最先端の光技術を活用しています。

本講演では、重力波天文学の最新成果と、それを支える超高感度計測技術についてお話します。
●難易度:入門程度(大学一般教養程度)

TMTが切り拓く超巨大ブラックホール研究の最前線

国立天文台 アルマプロジェクト 助教 泉 拓磨 氏
みなさんは「天の光は全て星」…ではなく、一部の光は太陽の1億倍もの重さを持つ超巨大ブラックホールの周辺から出ていると聞くとどう思われるでしょうか?実は宇宙にはそうした超巨大ブラックホールがたくさん存在し、さらに、それらは銀河と運命を共にして宇宙の歴史の中で成長してきたようなのです。

現在、 我々日本の研究チームは、すばる望遠鏡やアルマ望遠鏡を駆使して、そうした銀河とブラックホールの「共進化」の起源を紐解こうとしています。たとえば、すばる望遠鏡による広域探査から、130億光年もの彼方の宇宙(宇宙年齢が10億歳に満たない時代に相当)にも超巨大ブラックホールが大量に見つかりました。
それらを宿す銀河の中で星が生まれる様子や、ブラックホールが銀河内のガスを吹き飛ばす様子も、アルマ望遠鏡やジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で詳しく調べられています。

しかし、こうして研究が大きく進展する一方で、私たち天文学者は「現在の望遠鏡ではできないこと」「現在の望遠鏡の性能限界」を痛感し始めました。
つまり、さらなる分野の発展のためには次世代の大望遠鏡が必要なことを、身をもって理解し始めたのです。

本講演では、超巨大ブラックホールと銀河の共進化の不思議を紹介し、現在の研究の最前線を概観するとともに、日本も参画して建設の進む光赤外線帯の超大型望遠鏡・Thirty Meter Telescope (TMT) がいかにこの分野にブレークスルーをもたらすかをお話しします。
●難易度:一般的(高校程度、一般論)

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早藤 麻美

宇宙航空研究開発機構

第一宇宙技術部門 先進光学衛星プロジェクトチーム 研究開発員

2010年 東京理科大学大学院 理学研究科 物理学専攻 博士課程修了、博士(理学)。2010~2013年 NASA Goddard Space Flight Center、2013~2019年 理化学研究所にて、X線天体宇宙物理学の研究に従事 (衛星搭載用検出器開発、衛星による天体観測とデータ解析)。2019年に宇宙航空研究開発機構に入社。超低高度衛星技術試験機SLATSプロジェクトに配属、光学センサを担当。現在、先進光学衛星プロジェクトチームにて広域・高分解能光学センサ開発・校正検証を担当。

重藤 真由美

宇宙航空研究開発機構

第一宇宙技術部門 GOSAT-2プロジェクトチーム 主任研究開発員

2011年、早稲田大学理工学術院応用化学専攻修士課程修了。同年、宇宙航空研究開発機構に入社。入社後、種子島宇宙センターでロケット追尾の仕事に従事後、衛星部署へ異動しデータ処理・通信系担当を経て2018年からはGOSAT-2の観測運用を実施している。また、ANAとの共同実験である航空機からの温室効果ガス(二酸化炭素やメタン)および二酸化窒素、植物蛍光の取得とその精度向上に努めている。

小田 寛

宇宙航空研究開発機構

追跡ネットワーク技術センター SSAシステムプロジェクトチーム 主任研究開発員

2008年4月日本学術振興会 特別研究員DC2 (千葉大学) 2009年3月千葉大学大学院自然科学研究科数理物性科学専攻 終了2009年4月日本学術振興会 特別研究員PD (2009年5月から2010年3月まで米国の Harverd-Smithonian Center for Astrophysiscsに滞在) 2010年4月千葉大学大学院理学研究科 特任研究員 2010年8月 Shanghai Astronomical Observatory (China) Postdoctoral Researcher 2011年12月 国立天文台 天文シミュレーションプロジェクト(CfCA) 研究支援員 2013年4月宇宙航空研究開発機構 研究開発本部 未踏技術研究センター 研究員(招聘職員) 2015年4月宇宙航空研究開発機構 追跡ネットワーク技術センター 研究員

田崎 文得

東京エレクトロン テクノロジーソリューションズ株式会社

シミュレーション技術開発部 シニアスペシャリスト

2014年に京都大学大学院理学研究科博士後期課程修了 (博士・理学)。専門は、活動銀河核の観測的研究。国立天文台水沢VLBI観測所で特任研究員を務め、ブラックホール撮影のプロジェクトEHTに参加。ブラックホール画像化のためのツール開発や、実際の観測データからブラックホールの画像化に貢献した。また、2017年から2022年までEHTプロジェクトの広報委員会の取りまとめ役も務めた。2020年からは東京エレクトロン テクノロジーソリューションズ株式会社に勤務し、データサイエンス的アプローチを用いて半導体製造装置開発とブラックホール研究の両方に取り組む。

麻生 洋一

国立天文台

重力波プロジェクト 准教授

東京大学大学院理学系研究科物理学専攻卒業 理学博士
コロンビア大学 博士研究員
カリフォルニア工科大学 博士研究員
東京大学大学院理学系研究科 助教
を経て、現在、国立天文台 准教授
一貫して重力波検出器の高感度化に関する研究を行う。
日本の重力波検出器KAGRA計画では、干渉計の設計責任者、防振装置のインストール責任者などを務める。

泉 拓磨

国立天文台

アルマプロジェクト 助教

1988年生まれ。東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科天文学専攻を修了。博士(理学)。日本学術振興会特別研究員、国立天文台フェロー、国立天文台特任研究員を経て、現在国立天文台アルマプロジェクト助教。専門は宇宙の古今にわたる活動銀河中心核の観測的研究。アルマ望遠鏡、すばる望遠鏡、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡などの最新の観測装置を駆使して、銀河とブラックホールの共進化の謎の解明に挑んでいる。アウトリーチ活動にも積極的に取り組んでいる。趣味は銭湯と赤提灯な居酒屋巡り。