宇宙・天文光学 特別技術セミナー

2024年04月25日(木) 09:30-12:25 アネックスホール F203
【SA-1 JAXAの研究者が語る宇宙コース

熱赤外線地球観測の技術開発 ~より効率的な地表面温度分布観測を目指して~

宇宙航空研究開発機構 研究開発部門 センサ研究グループ 研究開発員
菅沼 正洋 氏
熱赤外線地球観測の基礎と、筑波宇宙センターにおける本分野の要素技術研究開発の取り組みを紹介します。

対象物自身から発せられる熱赤外線の観測は、太陽光照射に依存しないうえ、地球表面の温度や地球大気に敏感な波長がそれぞれ多種存在します。その情報量の多さから、気象衛星をはじめとする多波長センサでは主要波長域となっています。

しかし、その実現に必要な技術は、熱赤外線検出器の入手と駆動、極低温への冷却、光学系の背景放射対策、観測データの大気補正・放射率補正、温度決定精度の検証維持など、多岐に渡ります。可視光観測に比べ敷居が高いですが、是非普及したいところです。

我々のグループは、実験室レベルでは、最先端の高感度大フォーマット赤外線検出器である、タイプII超格子(T2SL)検出器を開発・評価する一方、それらが観測システムになった際の校正評価手法の構築にも取り組んでいます。

衛星ミッションとしては、小型非冷却赤外カメラ(CIRC)を開発し8年間軌道上運用・校正維持した経験(2014年7月~2023年3月)を基に、T2SL検出器を搭載した新規の小型赤外カメラを開発し、軌道上運用実証する検討を進めています。これらの活動についても紹介します。
●初級程度(大学専門程度、基礎知識を有す)

木星氷衛星探査機(JUICE)搭載ガニメデレーザ高度計(GALA)で測る氷衛星の表面と地下の海

宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 太陽系研究部門 准教授
塩谷 圭吾 氏
2023年4月、木星氷衛星探査機JUICEが、南米仏領ギアナ宇宙センターより、アリアン5ロケットにて打上げられました。

JUICEは木星の氷衛星であるカリストとエウロパをフライバイ観測し、ガニメデを周回軌道上から詳しく観測します。ガニメデの表面は氷の世界ですが、その地下には大規模な液体の海が存在する可能性が指摘されています。

ガニメデレーザ高度計GALAは、JUICEに搭載された科学観測機器のひとつです。GALAの重要な目標のひとつは、氷衛星の表明地形を測定して、その誕生と進化を解明することです。

GALAのもうひとつの重要な目標は、ガニメデの僅かな潮汐変形等を計測することで、地下海についての情報を得ることです。氷衛星の地下海について解明することは、アストロバイオロジー(宇宙生命論)のためにも重要です。GALAの開発は、ドイツ、日本、スイス、スペインによる国際協力によって遂行しました。

講演ではJUICE計画の概要と合わせてGALAについて解説し、またGALA開発当事者ならではの視点から、開発や打上げなどの経験を紹介したいと思います。
●一般的(高校程度、一般論)

観測を始めたX線分光撮像衛星XRISM

宇宙航空研究開発機構  宇宙科学研究所
X線分光撮像(XRISM)プロジェクトチーム 主任研究開発員
冨田 洋 氏
2023年9月X線分光撮像衛星”XRISM(クリズム)”の打ち上げが成功し天体観測を開始した。

XRISMは0.3-13 keV(波長0.1~4nm)のX線帯域で観測を行う。本帯域は温度で数百万~1億℃に相当し、銀河団に付随する高温プラズマ、超新星爆発に伴う衝撃波で熱せられた星間物質、ブラックホール等の重力をエネルギー源とした高エネルギー現象などの”熱い宇宙”が観測対象となる。

XRISMは撮像を主目的とする”Xtend”と分光を主目的とする”Resolve”を搭載する。本講演ではXtendを中心に観測装置とその開発結果について紹介する。

Xtendはミラー部(XMA : X-ray Mirror Assembly)とCCDカメラ部(SXI : Soft X-ray Imager)からなる望遠鏡である。XMAは米国/NASAが開発し、SXIはJAXAが国内大学・メーカーと共同で開発した。
SXIで最も重要となるX線用CCDは国内大学と浜松ホトニクス(株)が開発した国産品で、住友重機械工業(株)と開発した機械式冷凍機で-110℃に冷却する。アナロ/デジタル回路やカメラ筐体を含めたSXI全体は三菱重工業(株)との共同開発である。

軌道上では各種天体を”photon counting mode(各photonのエネルギーと到来方向を決定するモード)”でX線観測し、期待された通りの撮像・分光性能を確認した。下図はXtendで得た銀河団のX線画像である。
本講演ではXtendのさらなる詳細も含めたXRSIMを紹介する。
●初級程度(大学専門程度、基礎知識を有す)

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2024年04月26日(金) 09:30-12:25 アネックスホール F203
【SA-2 国立天文台を活用する研究者が語る天文コース

マルチメッセンジャー天文学

国立天文台 科学研究部 教授 冨永 望 氏
宇宙から地球に届く信号は、情報を運ぶものという意味でメッセンジャーと呼ばれます。

通常の天文学は電磁波を用いて観測しますが、近年の技術の発展により電磁波以外のメッセンジャーを用いた天文学が実現されてきています。

マルチメッセンジャー天文学のなかで最も新しい天文学が重力波天文学です。重力波とはアインシュタインが打ち立てた一般相対性理論によって予言された波で、重力による空間の歪みが光速で伝わる現象です。人類は長らくこの現象の直接観測を目指してきました。

2015年アメリカの重力波望遠鏡が遂にブラックホール合体からの重力波直接検出に初めて成功しました。さらに、2017年には中性子星合体からの重力波が検出され、そこでランタノイドと呼ばれる金やプラチナのように重い元素が合成されていることが明らかとなりました。

本講演では、重力波天文学を中心に、近年注目を集めているマルチメッセンジャー天文学についてお話しします。
●入門程度(大学一般教養程度)

木曽トモエゴゼンが切り拓くタイムドメイン天文学

東京大学 天文学教育センター 准教授 酒向 重行 氏
今、見上げる夜空の姿は、1時間前、1秒前の姿とどこか異なっているのかもしれない。
そうした短時間に変わりゆく宇宙の姿を追う研究分野をタイムドメイン天文学と呼びます。

東京大学木曽観測所では保有する105cmシュミット望遠鏡にトモエゴゼンと名付けた広視野CMOSカメラを取り付けて、毎晩、空の広い範囲を動画で繰り返し観測することで、これまで人類が気づかなかった激動の宇宙の姿を探求しています。

1億個以上の天体が映り込む巨大データの中に、微弱で一瞬の一期一会の現象をとらえます。それは広視野オプティクス、巨大イメージセンサー、大規模計算機、機械学習、自立運転といった先端技術の融合により初めて実現されました。

本講演ではトモエゴゼンの観測システムの概要を述べた後に、4年間の観測運用で得られた代表的な科学成果について紹介します。
●入門程度(大学一般教養程度)

Thirty Meter Telescope計画と天文学を支える技術の紹介

国立天文台 TMTプロジェクト 准教授 鈴木 竜二 氏
国立天文台では、すばる望遠鏡に次ぐ次世代の超大型光赤外線望遠鏡として、口径30 mの望遠鏡を国際協力で建設するThirty Meter Telescope (TMT)計画を推進しています。

TMTはその大口径と補償光学技術を組み合わせることで、すばる望遠鏡に比べて4倍の解像度、200倍の感度を持ち、これまでにない解像度で人類が見たことのない宇宙の姿を映し出すことを目指しています。

国際協力であるTMT計画において、日本はサイエンス、技術の両面で計画を牽引しています。
サイエンスの面では、本ワークショップのテーマである時間軸天文学を含め、太陽系天体から遠方宇宙まで様々なサイエンスケースが提案されています。また技術面においては、日本は望遠鏡構造、主鏡の鏡材、主鏡の研磨の一部、そして観測装置の一部の開発を担当しており、観測所システムの主要な部分が日本の技術によって支えられています。

本講演では、最初にTMT計画の概要と、時間軸天文学を含め、TMTで見えてくると期待される新たな宇宙の姿を紹介します。後半部分では、TMTを含め天文学を支える技術の一例として、国立天文台先端技術センターで行われている技術開発を紹介します。
●一般的(高校程度、一般論)/ 入門程度(大学一般教養程度)

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菅沼 正洋

国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構

研究開発部門 センサ研究グループ 研究開発員

2004年、東京大学大学院理学系研究科天文学専攻博士過程修了。博士(理学)。ハワイのMAGNUM天文台にて可視赤外線望遠鏡の立上げを行い、赤外線全天雲観測器の開発等、観測の無人自動化を進める。
2004~2008年、国立天文台研究員。超小型天文観測衛星Nano-JASMINEのミッション系の開発を行う。
2008年、JAXAに入社。地球観測研究センターにて宇宙用大型光学系の波面測定技術の研究を行う。衛星部署にて実用光学センサの性能向上検討と試作研究業務を経て、2020年から現部署にて将来の可視・赤外線地球観測を目指した技術開発に取り組む。

塩谷 圭吾

国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構

宇宙科学研究所 太陽系研究部門 准教授

●宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 太陽系科学研究系 准教授
●木星氷衛星探査機(JUICE)搭載ガニメデレーザ高度計(GALA)日本チームプロジェクトマネージャー
●系外惑星大気赤外線分光サーベイ衛星(Ariel)JAXAチーム長

>冨田 洋

国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構

宇宙科学研究所 X線分光撮像(XRISM)プロジェクトチーム 主任研究開発員

1994年 京都大学理学部卒業(主に物理を専攻)
1996年 京都大学理学研究科前期博士課程修了
1999年 京都大学理学研究科後期博士課程修了(理学博士)・宇宙開発事業団入社(後に宇宙航空研究開発機構へ移行)。以後宇宙ステーションや衛星に搭載にする宇宙科学観測装置等の開発や運用を主に担当し現在に至る。

冨永 望

国立天文台

科学研究部 教授

2007年9月東京大学理学系研究科修了
2007年10月-2008年3月東京大学理学系研究科研究員
2008年4月-2009年3月国立天文台光赤外研究部研究員
2009年4月-2012年3月甲南大学理工学部講師
2012年4月-2017年3月甲南大学理工学部准教授
2017年4月-2021年3月甲南大学理工学部教授
2021年4月- 国立天文台科学研究部教授

酒向 重行

東京大学

天文学教育センター 准教授

名古屋大学理学部物理学科 (1999卒)
東京大学大学院理学系研究科天文学専攻 (2004卒,博士理学)
東京大学天文学教育研究センター・研究員 (2004 - 2008)
東京大学天文学教育研究センター・助教 (2008 - 2020)
科学技術振興機構・さきがけ研究員 (2015 - 2019併任)
東京大学天文学教育研究センター・准教授 (2020 - 現在)

鈴木 竜二

国立天文台

TMTプロジェクト 准教授

理学博士。東北大学を卒業後、ハワイ大学、カリフォルニア工科大学での研究員を経て、2011年より国立天文台。赤外線観測装置の開発が専門。これまですばる望遠鏡用の広視野多天体分光装置、高コントラスト観測装置の開発を手掛けた。2007年よりThirty Meter Telescope第一期観測装置InfraRed Imaging Spectrograph (IRIS)の開発に参加。現在、IRIS撮像系開発の中心となる国立天文台先端技術センターにおいて開発チームのマネージャ、及びIRIS国際チームのリードシステムズエンジニアを担当している。