NICT(情報通信研究機構)の研究者が語る最新研究

2024年04月26日(金) 13:00-16:15 アネックスホール F203
【NIC-1 NICT(情報通信研究機構)の研究者が語る最新研究

SNAP-CII: 一般商用カメラによる市民参加型大気観測

情報通信研究機構 テラヘルツ研究センター テラヘルツ連携研究室 主任研究員 佐藤 知紘 氏
地球温暖化や大気汚染等、地球大気に関する問題はますます深刻さを増しており、この地球規模の環境問題には市民一人ひとりが自分事として向き合う必要があります。私は、環境問題への意識を高めるためには、まずは自分自身が参加し、当事者意識を持つことが不可欠であると考えています。その一つの手段として、カメラによる写真撮影に注目しています。

スマートフォンやSNSの急速な普及により、「カメラで写真を撮る」という行為は、誰でも当たり前に行うようになりました。日常的に行う写真撮影がそのまま大気観測になる、これを実現することで、一般の方々も大気観測に参加することができます。そこで我々は、スマホ等の一般商用カメラにより撮影された画像から大気中のエアロゾル濃度を推定するアルゴリズム(SNAP-CII)の開発に着手しました。

エアロゾルは、PM2.5に代表されるように、健康被害を引き起こす大気汚染物質であると同時に、地球温暖化予測の上でも鍵となる物質です。この重要物質であるエアロゾルを、SNAP-CIIを用いることで一般市民を巻き込んで時空間的に稠密に観測することができるようになります。

本講演では、SNAP-CIIの原理等の技術的な内容とともに、これまで実施してきたアウトリーチ活動や今後の展望についてご紹介します。

NICT衛星-地上間光通信用地上局テストベッドの概要

情報通信研究機構 ネットワーク研究所 ネットワーク研究センター 宇宙通信システム研究室 研究技術員 宇佐美 敬之 氏
衛星-地上間の通信における高速化を目指す上で空間光通信は有望な手段として近年研究・開発が進められています。
また、空間光通信はその指向性の良さから暗号通信との親和性も良く、高いレベルでの安全性を持つ通信を確保する上で非常に重要な通信手段となっていくと予想されます。

このような背景から、NICTでは空間光通信技術の研究開発を推進するために利活用可能な光地上局テストベッドとして、鹿島宇宙技術センターに2m口径の光アンテナ、小金井、鹿島、神戸の3拠点に40cm口径の光アンテナを整備しています。
また、これらの新設光アンテナ設備とNICTの既存の望遠鏡設備とを10Gbpsの光ネットワークで結び、遠隔操作や気象条件の良いサイトを選択する等が実行可能な環境を構築しています。

さらに、光アンテナを車載した可搬型光地上局や運搬可能な小型光地上局の整備も進めており、利用する場所が限定されない空間光通信の実現を目指して研究開発を進めています。

この講演では、これらのテストベッドとして活用いただくことを想定した光通信地上局の整備状況と自動化に向けた取り組みを紹介します。
●入門程度(大学一般教養程度)/ 初級程度(大学専門程度、基礎知識を有す)

補償光学系技術の衛星光通信への応用

情報通信研究機構 ネットワーク研究所 ネットワーク研究センター 宇宙通信システム研究室 リサーチアシスタント 六川 慶美 氏
現在NICTでは,技術試験衛星9号機(ETS-9)を用いた地上-衛星間の伝送速度10Gbps級の双方向光衛星通信の実現に向けて地上局側の整備を行っている。

電波通信と比較してワイヤレス光通信においては、地上-衛星間の通信では大気の影響を受けるという課題があげられる。特に、高速大容量地上-衛星間光衛星通信を達成するためには「大気ゆらぎ」の影響の軽減をする必要があり、解決の手法のひとつとして「補償光学系」の技術があげられる。

ETS-9との光通信実験はNICTが所有する小金井1m望遠鏡を光アンテナとして使用する計画であり、2017年より補償光学系の設計を開始し、2022年に補償光学系を実装するといった準備が進められている。

本講演では補償光学の概要や通信への応用における課題について説明をした上で、現在進められているNICT小金井1m望遠鏡補償光学系に関する研究について紹介する。加えてNICTで新たに開発を行った地上局に取り付けられる補償光学系や、衛星に搭載される補償光学系の開発についても紹介する。

光空間通信による盗聴不可能な通信技術の実現に向けて

情報通信研究機構 量子ICT協創センター 研究マネージャー 遠藤 寛之 氏
光空間通信は広帯域、低消費電力、低干渉性などの様々な特徴により注目を集めている。しかし、広がりの狭いレーザビームで搬送される情報を送受信者に見つかることなく盗聴することが非常に難しいことから、潜在的に高いセキュリティも有している。
講演者はNICTにおいて、光空間通信のこのセキュリティに関する特徴を活かした、いかなる計算機でも解読不可能な通信技術である物理レイヤ暗号の研究開発に携わってきた。

本講演の前半では物理レイヤ暗号や、それと関連の深い技術である量子暗号の原理を解説する。また、講演者がこれまで関わってきた、7.8km光空間通信リンクを用いた実証実験や、衛星量子暗号技術の実現に向けた国家プロジェクトの現状を紹介する。

後半では、本技術の実現、普及に向けて講演者が痛感している問題意識を共有させていただき、その克服に向けて様々な角度から実施中の研究開発を紹介する。物理レイヤ暗号の高速化に向けては、高効率な誤り訂正符号の開発を実施している。合わせて、大気を伝搬する光空間通信に起こりえる盗聴リスクを正しく推定するためのセンシング技術も開発している。
これらの実例に基づいて、物理レイヤ暗号という技術の実現に向けて、研究開発が進むべき方向性を提示していきたい。

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佐藤 知紘

国立研究開発法人 情報通信研究機構

テラヘルツ研究センター テラヘルツ連携研究室 主任研究員

2014年3月に東京工業大学にて博士(理学)を取得。市川学園常勤講師を経て、2015年9月にNICT入所。有期雇用研究員、テニュアトラック研究員を経て、2021年4月より現職。衛星リモートセンシングを軸とし、広く地球大気研究に従事。2017年日本大気化学会奨励賞受賞。近年は、大気汚染研究の民主化を目指し、キレイな空気指数(Clean aIr Index, CII)やスマホ等カメラによるエアロゾル濃度測定アルゴリズム(SNAP-CII)の開発に従事。2021年度NICT成績優秀表彰(優秀賞・団体)受賞。

宇佐美 敬之

国立研究開発法人 情報通信研究機構

ネットワーク研究所 ネットワーク研究センター 宇宙通信システム研究室 研究技術員

神奈川県横浜市在住。自動車整備士の国家資格を取得し、ディーラーで自動車整備士、整備工場フロントとして従事。2010年よりNICTにて光通信にも利用可能な1.5m口径の大型望遠鏡設備の維持管理に携わりSLR(Satellite Laser Ranging)観測を通じて望遠鏡や光学系設備の整備保守実験作業を担当、1m望遠鏡や可搬型光地上局を利用したISS、HAYABUSA2、SOTA等の通信実験にも携わる。2023年度各地に建設中である光アンテナの製造維持管理を担当する為研究技術員となり、2023年度中に各局の製造が完了。今後テストベットとして利用いただけるよう調整を行う。

六川 慶美

国立研究開発法人 情報通信研究機構

ネットワーク研究所 ネットワーク研究センター 宇宙通信システム研究室 リサーチアシスタント

東京都出身。国際基督教大学博士前期課程アーツ・サイエンス研究科理学専攻物質科学専修。2022年より情報通信研究機構宇宙通信システム研究室にてリサーチ・アシスタントとして光通信における補償光学の研究を始める。
2024年度より、情報通信研究機構宇宙通信システム研究室研究技術員として入所。

遠藤 寛之

国立研究開発法人 情報通信研究機構

量子ICT協創センター 研究マネージャー

2012年 早稲田大学 先進理工学部 物理学科 卒業
2013年 国立研究開発法人 情報通信研究機構
    未来ICT研究所 量子ICT研究室 協力研究員
2014年 早稲田大学大学院 先進理工学研究科
物理学及応用物理学専攻修士課程修了
2016年 2015年度 衛星通信研究会賞 受賞
2017年 博士号取得(博士(理工))
2017年 情報通信研究機構
未来ICT研究所 量子ICT先端開発センター 研究員
2019年 平成31年度情報通信研究機構表彰(成績優秀表彰・個人)
2021年 情報通信研究機構
量子ICT協創センター 研究マネージャー

衛星を含む光空間通信における量子暗号・物理レイヤ暗号、誤り訂正符号、LiDAR等に関する研究開発に従事。