月刊OPTRONICS
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2009.12 vol.28 No.336 |
総論
千葉大学 尾松 孝茂
レーザー物理学,レーザー分光学をはじめ光科学の分野で超短パルスレーザーの主役はフェムト秒レーザーである。これまでにフェムト秒レーザーは高次高調波発生,アト秒物理,テラヘルツフォトニクスなど様々な光科学を生み出してきた。一方,産業用パルスレーザーの主流はナノ秒レーザーである。大きなパルスエネルギーを有するナノ秒レーザーはスクライビング加工やレーザーマーキングなどの微細加工から,次世代半導体リソグラフィー用EUV光の励起源まで様々な産業応用に用いられている。時間領域でフェムト秒とナノ秒の中間にあたるピコ秒レーザーは,光科学と光産業のはざまで比較的地味で忘れられた存在であった。そのピコ秒レーザーが,今,欧州を中心に熱い注目を集めている。フェムト秒に比べてパルスエネルギーが大きくて高出力化に向くこと,ナノ秒に比べパルス幅が短くデブリの少ないアブレーション加工ができること,この二つの利点がピコ秒レーザーの魅力である。・・・(続きは本誌で)
高出力側面励起Ndドープバナデートピコ秒レーザー
千葉大学 尾松 孝茂
808nm,あるいは,980nm帯の高出力半導体レーザーを励起光として用いる高出力半導体レーザー励起ピコ秒固体レーザーは,電力−光変換効率(〜10%)が圧倒的に高くフォトンコストが安い。ピコ秒レーザー材料は,Nd系材料とYb系材料の二つに大別できるが,Yb系材料に比べ誘導放出断面積が圧倒的に大きいNd系材料は,高利得増幅器に向いている。中でもイットリウムバナデート(Nd:YVO4)に代表されるバナデート系材料の誘導放出断面積は〜10-18cm2とNdドープヤグ(Nd:YAG)の3倍以上ある。したがって,わずか2cm程度のスラブ結晶からなる増幅器で1,000倍を超える高いレーザー利得が容易に得られる。Nd系材料の欠点は,励起光である半導体レーザー光子とレーザー光子のエネルギー差(量子欠損)の他に,レーザー上準位の無輻射緩和,レーザー上準位からのアップコンバージョン遷移などのさまざまな要因から熱が発生する点である。・・・(続きは本誌で)
高機能ピコ秒半導体レーザによる多光子バイオイメージング
東北大学 横山 弘之
近年,高空間分解能等を活かした3次元バイオイメージングや,レーザ光パルスの持つ高ピークパワー性・高時間分解能を活かした分子構造レベルでの生体組織診断の研究など,先端バイオフォトニクスとでも呼ぶべき分野が急速に立ち上がってきている。そこでは,ピコ秒以下の超短時間幅光パルス,キロワット超の高ピークパワー,紫外線から赤外線にわたる超広帯域での波長選択性など,情報エレクトロニクス応用の場合とはまた違った高機能性がレーザに求められる。このため,先端バイオフォトニクスでは,現在は主に実験物理学分野で発展を遂げてきた大型のレーザ装置が利用されている。しかし,欧米がリードするこのような先進的レーザ装置も,バイオフォトニクス応用目的ではまだ必要十分な機能を備えていないことに加えて,生物学・医学をバックグランドとする人々が自在に使いこなせない特殊光源であるために,研究・技術開発の広がりを制限する要因ともなっている。それゆえ,我々は,先端バイオフォトニクスで最もキーとなるのは高機能でかつ実用性に優れた光源であるという認識のもと,情報エレクトロニクス応用で堅固な基盤を持つ半導体レーザを心臓部とする独自光源の開発から研究に取り組んでいる。・・・(続きは本誌で)
ミリジュール級出力を目指した液体窒素冷却型高平均出力ピコ秒レーザ
大阪大学 河仲 準二,京都大学 時田 茂樹
高エネルギーパルスファイバレーザー技術の進展
大阪大学 西澤 典彦,伊東 一良,(独)産業技術総合研究所 榊原 陽一
共振器が光ファイバで構成され,超短パルスを出力する受動モード同期ファイバレーザーは,超短パルス固体レーザーから少し遅れて1990年頃に開発が始まったレーザーである。最近,Yb添加ファイバや特殊ファイバ,そして新しい光デバイスの開発によって,ファイバレーザーの分野も新しい展開を見せている。光ファイバにおける非線形効果を用いたパルス伝搬でも,従来のソリトンパルスの伝搬に加えて,新しいパルスの伝搬が用いられてきた。また,フェムト秒〜ナノ秒台の高エネルギーパルスを生成するファイバレーザーの研究が進んできた。前号(11月号)では,我々が取り組んでいる高機能超短パルスファイバレーザー光源の開発について紹介した。本稿では,近年開発が進んできた,フェムト秒〜ピコ秒台の高エネルギーパルスファイバレーザー技術や,Yb添加ファイバを用いて開発されてきた,新しいファイバレーザー技術について,筆者等の成果を交えながら概説する。・・・(続きは本誌で)
ロッド型Ybセラミックピコ秒レーザーとその応用
(株)メガオプト 和田 智之
フォトニクス国際会議 ECOC2009 参加報告
(有)グローバル・ファイバオプティックス 梶岡 博
光通信用レーザの最新動向
(株)日立製作所 有本英生,牧野 茂樹,鈴木 崇功,篠田 和典
ナイトライド系レーザダイオード最新動向―緑色レーザダイオードの実現と今後の展開―
名城大学 天野 浩
加工用レーザの最新動向
(有)パラダイムレーザーリサーチ 鷲尾 邦彦
太陽光発電と電気自動車
島田 禎晉
最近電気自動車(EV:Electric Vehicle)についての記事,テレビ報道,書籍を目にすることが多い。“自動車産業改革の主役は電気自動車である”,“将来は電池が動力の柱となり,電気自動車がスタンダードになる”とまで書かれている。これは本当であろうか。今年はじめに,ふと疑問に思った。石油の高騰・枯渇がガソリンエンジン車の存在を危うくする。これはエネルギー資源の問題である。電気も,大部分はエネルギー資源(一次エネルギーである石油,石炭,天然ガス,ウランなど)から作られる。問題の根源は同じはずである。他方,太陽光発電や風力発電など再生可能な新エネルギーの利用が世界各国で活発になってきており,エネルギー資源問題の解決へ向けて期待が高まっている。本誌でも,本年6月号に太陽光発電の効率向上を目差す「多接合太陽電池と集光発電システム」の特集が掲載されたばかりである。しかしながら,現実にはまだ解決すべき課題が多く残されており,新エネルギーの導入は急には進まない。これについては章4でふれる。・・・(続きは本誌で)
発明・特許のこぼれ話 第24回 マッチの話
SMK(株) 鴫原 正義
師走になりましたが,寒くなると暖房なしではいられません。最近は一年中電気によるエアコンに代わっている面もありますが,原点は火力,即ち“火”です。近代になって,自由に火を扱えるようになったのはマッチのお陰ともいえます。小さなモノの代名詞のようにもいわれますが,機能と効果からは偉大な発明……と思います。今回はこのマッチを探ってみました。人類が初めて火を手にしたのは,落雷や火山などによる自然火災から採って来た時だといいます。やがて,乾いた木を擦り合わせ,摩擦熱で火を起こす術を習得しますが,人類が自ら火を起こしたのは,凡そ50万年前の北京原人が最初だったとの説が定説です。これは,人類最初の大きな発明ともいえるでしょう。この摩擦による発火術は火溝(ひみぞ)式などの往復動作による手法が使われ,後に軸木を回転させるキリモミ式が考案されて効率が上がります。一方,太陽光と凹面鏡などを利用した発火方法も古代ギリシア時代に使われるようになります。その後,黄鉄鉱に硬い石を叩くと火花を出す現象を発見し,火打ち石による方法が考え出されます。しかし,これらは大変な労力を伴うことはいうまでもありません。・・・(続きは本誌で)
USA Today 第24回 米国のLED電球事情
Optomarketing USA 中島 和宏
一般電球のプラグに装着ができるLED電球が,ようやく店舗やオンラインで購入できるようになった。これまで装飾用,業務用等に限られていた電球代替型のLED電球市場が,一般の民生用として手が届くようになったことは大きな進展であろう。無論,まだまだ非常に高価で,つい手が出てしまうという状況ではない。「LED電球は優れモノだ。しかし,ホームデポ(米国のDIY量販チェーン)に行って,BBQグリルと同じような値段の付いた『電球』を購入する消費者は稀だ。」グリーンテック・メディア社のアナリストMichael Kanellos氏は言う。とはいえ,LED自体はさまざまな電灯,照明や装飾製品等に既に利用されている。ただし,量販店で見かけるそれらのLED光源は,LED単体あるいは反射板を備えたリフレクタ型で,別電源や電池などから直流を供給する製品が多い。米国では従来の豆球や電球を使用した製品に比べて約四倍の価格で電力コストの節減や長寿命等のメリットを享受できる。だが,一般の電球に置き換えることができるLED電球は,電源制御内蔵や色調制御等の課題,そして何より製造コスト高を克服する必要がある。・・・(続きは本誌で)
原点に戻って学ぶレーザー原論 第9回 原子のエネルギー状態と光の吸収・放出
(独)科学技術振興機構 黒澤 宏
レーザーは,反転分布を持つレーザー媒質,2枚のミラーで構成されている共振器,反転分布を作るためのポンピング源から出来ている。一方,レーザーの特徴は「干渉性」「単色性」「指向性」「制御性」である。後ろの2つの特徴は,主に共振器で作られ,前の2つは主にレーザー媒質で作られる。レーザー媒質は,原子のエネルギーと深く関わっており,これらの特徴を理解しようとすれば,原子の構造に戻って考えなければならない。そこで,これから原子と光の関係について詳しく調べていくが,今回はまず,原子の構造,エネルギー準位,遷移という言葉の意味について勉強していこう。レーザーの動作は物質の量子力学的性質に関係しており,そのため,レーザーは量子力学で動く装置であるといえる。では,量子力学とは何か?我々が普段,目にする世界,手に取ることができる世界を科学的に説明するには,ニュートンの運動方程式に代表される古典物理学が使われる。野球のボールであれ,人工衛星の動きであれ,ニュートンの運動方程式で軌道の予測ができる。それも極めて正確に。・・・(続きは本誌で)
光学技術者のための電磁場解析入門 第12回 RCWA法による広帯域1/4波長板の最適設計
コニカミノルタテクノロジーセンター(株) 齊藤 真紀子
光技術者のための基礎数学 第12回 ベクトル解析 I
職業能力開発総合大学校 河合 滋
ベクトルの微分や積分を扱う解析学をベクトル解析(Vector Analysis)と呼ぶ。物理学と密接に関連する物理数学の一つであることから,物理的な意味を考えながら解説する。
ベクトル量は大きさと方向をもっているので,その微分は複雑である。ベクトルを微分する場合には,微分演算子を作用させる。微分演算子は,スカラ形式のものとベクトル形式のものがある。これらの演算子を作用するベクトルの演算は3 種類あり,結果がスカラになる場合とベクトルになる場合がある。
(1)微分演算子
ベクトルの各要素を微分したベクトル形式の演算子をハミルトン演算子(Hamilton Operator)あるいはナブラ(Nabra)と呼ぶ。・・・(続きは本誌で)
光技術の研究開発・特許動向?/技術別に見る最新情報 第144回 CIS系薄膜太陽電池(昭和シェル石油)
嶋本国際特許事務所 嶋本 久寿弥太
銅,インジウム,セレンを組み合わせたCIS系薄膜太陽電池は,2007年頃から商業化が始まり,ドイツのステュッツ大学の基盤技術を核にしたドイツ企業と,日本の昭和シェル石油が本格的に参入し,昭和シェル石油が独走態勢に入っている。CIS系薄膜太陽電池の国際特許分類は,H01L31/04,H01L31/042で,1997年(平成9年)から2009年10月1日(平成21年)にかけての13年間の特許出願公開で見ると,1997年3件,1998年9件,1999年6件,2000年2件,2001年1件,2002年0件,2003年2件,2004年6件,2005年4件,2006年16件,2007年16件,2008年22件,2009年(10月1日まで)18件となっていて,合計105件となっている。その中で昭和シェル石油株式会社のCIS系薄膜太陽電池の研究開発成果を見ると,1997年(平成9年)から2009年10月1日(平成21年)にかけての13年間の特許出願公開で見ると,1998年1件,1999年1件,2006年16件,2007年11件,2008年14件,2009年(10月1日まで)12件となっていて,合計55件となっている。・・・(続きは本誌で)
いよいよ市場本格投入!3Dディスプレイは本物か!?
その登場以来,めまぐるしい進歩を遂げてきたFPDだが, 2010年はいよいよ3Dディスプレイの時代に突入しそうだ。既にパナソニックとソニーは,2010年に3Dディスプレイを発売することを正式に発表しているほか,他の大手家電メーカも試作品を次々と発表しており,市場は3Dに向けた臨戦態勢に入っている。期待が高まる一方,3Dディスプレイはこれまでも三洋電機やビクターなどが製品化に挑んできたが,その都度市場から撤退を余儀なくされてきただけに,悲運の技術と揶揄する向きもあった。しかし,今回は大手メーカが一斉に市場参入する準備を進めており,これまでとは違った熱気と期待感が市場にあふれている。はたして今回の「3Dブーム」は,本物となり得るのだろうか。・・・(続きは本誌で)
HEADLINE NEWS
DATA ROOM
▼ガラス製光ファイバ・ケーブル輸出数量,6ヶ月連続のプラス
▼太陽電池モジュールの生産実績,5ヶ月連続のプラス
▼民生用電子機器国内出荷金額,対前年同月比100.3%の2,654億円
CALENDAR
EVENTS
▼オプトロニクスセミナー 「基礎から学ぶ光学設計セミナー(冬季)」
▼多元技術融合光プロセス研究会 「第4回研究交流会」
▼レーザー学会学術講演会「第30回年次大会」
▼第5回レーザーディスプレイ技術研究会 「超小型プロジェクタとそれを支えるデバイス」
PRODUCTS INFORMATION
光科学分野で活躍するフェムト秒レーザと産業分野で用いられているナノ秒レーザの中間にあるピコ秒レーザが,欧州を中心に注目を集めています。
そこで,今月号の特集では千葉大学の尾松孝茂教授に,ピコ秒レーザとその応用に関する最新動向を企画していただきました。
教授が総論でも述べられているように,ピコ秒レーザはフェムト秒レーザに比べ高出力化に向いていて,ナノ秒レーザと比べればデブリの少ないアブレーション加工ができるという特長を有しています。
レーザ加工における省エネ化にも適していて,波長変換もフェムト秒レーザより容易,さらにフェムト秒レーザの代表,チタンサファイアレーザが産業応用として見た場合にフォトンコストが高いのに対し,ピコ秒レーザは半導体レーザで直接励起できるために安いということです。
欧州に比べ遅れていると言われるこの分野の研究・開発が,我が国でも進展する事を期待しています。
次世代スーパーコンピューティング技術推進事業が,政府の行政刷新会議の作業グループの事業仕分けで「限りなく予算計上見送りに近い縮減」とされ,事実上の凍結になるもようです。
報道によれば,作業グループからは「民間3社のうち2社が撤退し,見通しが不透明だ」とか「開発できなければ二流国になるなんて,あり得ない。見直しても国益には何のマイナスにもならない」とか「科学技術予算は,自民党のお陰で確保できたかもしれないが,結果的に損をした。予算は足りないぐらいが,アイデアが出ていい場合もある」などという意見が相次いだそうです(11月14日付・読売新聞6面)。
NECが撤退したのは,民間企業が開発費用の一部を負担するプロジェクト方式に変わったため,製造段階でさらに必要な負担(150億円とも言われている)が世界的不況による業績悪化で重いと判断,離脱を申し入れたもので,ベクトル型で共同開発を行なってきた日立も自動的に離脱したのが実情。意味がないとか,達成できないといった理由でやめたわけではありません。プロジェクトは残った富士通と設計を変更した上で,平成22年度の一部稼動を目指していました。
折りしもこの11月,「TOP500プロジェクト」が最新スパコン・ランキングを発表しました。
それによれば中国が5位と19位,ロシアも12位と,新興国の台頭が目立ちます。
日本の「地球シミュレータ」は31位,ついにトップ30から転落してしまいました。
資源の少ない我が国は科学技術で生きて行くしかありません。
国家戦略の自覚もなく,前政権が決めた事だという感情的視点から科学技術関連プロジェクトも無駄とのスタンスで行くなら,世界における地位はドンドン低くなって行き,やがて日本はアジアの片隅の本当に小さな国になってしまうのではないでしょうか。
ノーベル賞を受賞した小柴昌俊氏は,ご自身の研究に対する新聞記者からの「研究は何の役に立つのですか」という質問に「何の役にも立ちません」と言ったそうです。
作業グループがそこにいたら,研究はすぐ中止でしょう。
編集長 川尻 多加志
「ネットワークの省エネ化を実現する光技術」
グリーンネットワークと光技術:名古屋大学 佐藤 健一
インターネットトラフィックとICTエネルギーの課題:(独)産業技術総合研究所 挾間 壽文
グリーンネットワークを実現するFTTH:日本電信電話(株) 木村 秀明
サーバーの低消費電力化に向けた光インターコネクト:日本アイ・ビー・エム(株) 中川 茂
GE-PON ONUの低消費電力化技術:三菱電機(株) 中川 潤一
通信用光デバイスの低消費電力化:日本電気(株) 阿部 雄二
(都合により,内容に変更のある場合があります。)