21世紀は光とシリコンの時代

標題は今から丁度10年前のオプトロニクス1999年2月号に掲載した東京大学の荒川泰彦教授へのインタビュー記事の見出しです。この記事の中で荒川先生は「21世紀のエレクトロニクスを考えると、情報ネットワークと人間との融合が様々な形で重要になってきて、そのような社会を実現するために光とシリコンをベースとした新しいデバイスが必要になってくるであろう」と述べられています。
ご存知の通りシリコンは地球上には豊富に存在する無害な材料で、値段も安いので既に電子デバイスや半導体デバイスにはシリコンを材料とするものが数多くあり、シリコンフォトニクス・デバイスの出現で光デバイスと電子デバイスの完全融合が図られるので、現在では荒川先生の予見通り世界中で活発な研究開発が進められています。
 当然我が国でも色んなところで研究が進められていますが、その一つとして(財)光産業技術振興協会のシリコンフォトニクス・ブレークスルー技術委員会が2月5日に開催する「第2回シリコンフォトニクス技術フォーラム “シリコンフォトニクスへの期待”」があります。
フォーラムでは産学官連携の立場から、シリコンフォトニクスへの期待を、コンテンツ、ネットワーク、サーバー、そして、自動車に至る各応用分野の第一人者が述べることになっており、参加者がシリコンフォトニクスを活用した新しい製品イメージをつくるための技術討論の場を提供することを目的として開催されます。冒頭に紹介しました荒川先生は当日「閉会の辞」をされる予定です。参加は無料ですのでご興味のある方は下記をクリックしてお申し込みされたらいかがでしょう。http://www.oitda.or.jp/main/data/silicon.pdf
当然オプトロニクスでも2007年11月号でシリコンフォトニクスを特集で取り上げています。
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参考までにその号の編集長のコメントを下記に掲載します。
<オプトロニクス2007年11月の編集長のコメント>
 LSIにおける金属配線の限界を突破するとして光配線が注目を集めています。金属配線で特に問題とされているのが信号の遅延。速く送れないのですから,例えばコンピュータの処理速度を速くすることもできません。一方,光なら高速・広帯域伝送が可能ですから,この二つを融合すればスーパーコンピュータ等の処理能力は格段に向上するはずです。
 代表的な光デバイスである半導体レーザは化合物半導体で作られています。一方のLSIはシリコンで,二つの異なる材料のデバイスを一緒に作れるプロセスがあれば問題を解決できると期待されているのですが,これが非常に難しい。近年注目を集めているシリコンフォトニクスは,まさにこれを実現しようというもので,内外で研究・開発が活発に行なわれてきました。
 昨年9月,インテルはカリフォルニア大学サンタバーバラ校と共同でハイブリッド・シリコン・レーザの開発に成功したと発表して注目を集めました。何せ半導体業界における『巨人』インテルです。金属配線の限界を問題視していた同社では,これまでにもその解決のためにシリコンフォトニクスに関する研究・開発を進めてきました。2004年には1GHz以上の帯域幅を持つシリコン光変調器のデモに成功して,翌2005年にはシリコン変調器を用いて10 Gb/sデータ転送を実現,またシリコンで光増幅を行なってラマン効果によってチップ上で連続発振が可能なレーザを開発し,2006年にはシリコン・ゲルマニウム光検出器のデモにも成功しています。最近では40Gb/s動作のシリコン変調器も発表しています。
 同社が昨年開発したハイブリッド・シリコン・レーザは,インジウム・リンをベースとした利得材料をシリコン導波路上にボンディングしたもの。利得材料の上にプラス電極一つと,その両側に二つのマイナス電極を形成して,電圧をかけるとマイナス電極からプラス電極に電子が流れ,半導体格子内の正孔と再結合して光子を発生,光子はその真下にあるシリコン導波路上に入り,この導波路が共振器になるという仕組みです。
 ボンディングには酸素プラズマを用いて,シリコンウエハとインジウム・リンベースのウエハ表面に薄い酸化膜を形成させ,これが接着剤の役目を果たすというもので,ボンディングの正確な位置合わせが不要で,低コストの量産型製造プロセス用いることができるということです。
 これまでの研究を発表した時点で,既に同社は相当のパテントを押さえていると思われます。シリコンフォトニクスの研究は日本でも行なわれてきましたし,これからもさらに活発化すると思われますが,欧米では最先端のCMOSラインを共同利用ファンドリとして投入する体制も整えつつあるようです。日本にも戦略的な取り組みが求められています。今月号の特集はシリコンフォトニクスの研究・開発の最前線を取り上げました。
編集長 川尻 多加志

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