編集長の今月のコメント(2009年3月)

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編集長 川尻多加志

液晶配向処理は,液晶ディスプレイにおける画質劣化の原因となる光の透過むらを防ぐための必要不可欠なプロセス。この液晶配向には,これまでラビング法という機械的な摩擦手法が用いられてきました。ラビング法はポリイミドなど高分子配向膜を塗ったガラス基板に,レーヨンなどの布を巻いたローラーを回転させて押しつけ,配向膜表面を一定方向にラビングする(擦る)というものです。
ラビングによってどうして配向ができるのか,詳細なメカニズムは未だはっきりと分かっていないようなのですが,兎にも角にもこれによって液晶の配向方向を一定にすることができ,配向状態の仕上がりも良好で,かつ非常に簡便ということで,殆どの液晶ディスプレイ製造工程で用いられてきました。
ところが,このラビング法ではラビングの摩擦によって静電気や小さなダストが発生します。これが液晶ディスプレイ製造の歩留まりを落とす要因となっています。この他,大面積に液晶を均一配向することや処理過程の管理などが難しいという問題も抱えています。さらには,今後一層進展する画面のさらなる大型化に求められる新規配向形態に対し,ラビング法では対応できないとも言われています。
そこで,この機械的摩擦手法に代わる配向法として,光(紫外線)を照射することによって液晶を配向させる光配向法が注目を集めています。光配向法は静電気やダストの発生しない非常にクリーンな手法で,研究・開発は20年ほど前から続けられていて意外と古い歴史を持っているのですが,近年その重要性が認識されるようになって研究・開発が活発化しています。
今月号の特集では,この光配向制御技術にスポットライトをあてました。特集を企画していただいたのは東京農工大学の飯村靖文先生で,本分野の第一線で活躍されているエキスパートの方々に最新の研究・開発事例を紹介していただきました。
来月号の予告をちょっとさせていただきます。4月号から新しい連載「原点に戻って学ぶレーザー原論(仮題)」がスタートします。セオドア・H・メイマン博士が,世界で初めてのレーザー発振に成功してから既に50年近くが経とうとしています。この間,レーザーは通信やAV機器,計測,加工,医療等,様々な分野の機器・装置に応用され,もはや我々の生活に無くてはならないものになっています。
今回の新連載では,原点に戻ってレーザーを勉強しようということで,レーザーを理解するための光学の基礎,レーザーの原理と性質,レーザーを自在に使うための非線形光学の基礎と実際,さらには様々な種類のレーザーについて分かりやすく解説していただく予定です。ご執筆者は(独)科学技術振興機構・JSTイノベーションサテライト宮崎館長の黒澤宏先生です。お楽しみに。

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