編集長の今月のコメント(2009年7月)

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20090114-kawajiri.JPG 編集長 川尻多加志

 半導体デバイスは, Mooreの法則に沿うかたちで配線幅の微細化によりデバイスの高性能化を進展させて来ました。これからの方向としては,さらに微細化を進めることで高集積化・高密度化を図って行く「More Moore」と,これまでのCMOSデバイスに新機能を付加してデバイスの多様化・多機能化を図って行こうという「More than Moore」やCMOSとは全く異なる原理に基づくデバイスを目指す「Beyond CMOS」の方向に進んで行くと言われています。
 このうち「More than Moore」を具現化する基盤技術として,いま異機能集積・実装技術が注目を集めており,CMOSベースのシリコン上に光MEMSや光センサ等の機能を融合させる集積技術の進展が期待されています。内外では既にその実現のため,例えば格子常数や熱膨張係数が同じである必要がなく,材料の組み合わせ自由度が大きいウエハダイレクトボンディングや低温で且つハンダを使わないチップボンディング技術などに関する研究開発が活発化しています。
今月号の特集は,東京大学・先端科学技術研究センターの日暮栄治先生に企画していただいた異種材料光集積技術の最新動向をお届けします。特集の各ご執筆者にはエピフィルムボンディングやウェットボンディング,表面活性化ボンディング等,各種技術を用いて作製した最新の高機能光デバイスを紹介していただきました。
我が国の「国家基幹技術」である次世代スーパーコンピュータの開発から,NECと日立が離脱するそうです。このスパコンは1150億円を投入して神戸市のポートアイランド地区に建設中で,2010年度に稼動の予定でした。システムは専用MPUを用いるベクトル型と汎用MPUを多数用いるスカラ型の二つの演算部で構成され,ベクトル型をNECと日立が,スカラ型を富士通が担当していました。
NECは既に60億円をプロジェクトに投入したということですが,今後の製造段階ではさらに150億円が必要と言われ,同社は業績の悪化によってこの負担が重いと判断,離脱を申し入れたとのことです。NECとベクトル型の部分で共同開発契約を結んでいた日立も自動的に離脱となりました。
スパコン開発は,これまでは国がメーカを支援するかたちを採ってきましたが,今回のプロジェクトから,民間が開発費用の一部を負担する代わりに企業の事業転用を認めるというかたちに切り替わったそうで,世界的な不況の影響もあって,これが裏目に出たような格好となりました。
スパコンの研究開発は裾野の広い技術が結集して初めて成り立つもの。研究開発の過程や結果で得られる技術成果は「More Moore」や「More than Moore」を実現する技術開発にも貢献すると期待されています。さらに,完成した高性能スパコンは様々な分野に応用ができるわけですから,その開発は我が国の企業競争力を高め,延いては我が国全体の国際競争力向上につながるはずです。費用負担を含めナショナル・プロジェクトのやり方にも再考の余地はないのでしょうか。プロジェクトの今後が気になるところです。

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