編集長の今月のコメント(2009年8月)

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20090114-kawajiri.JPG 編集長 川尻多加志

今月号の特集は,ラマン分光法の最新動向にスポットライトをあてました。企画していただいたのは学習院大学の岩田耕一教授。特集ではこの分野の第一線で活躍中の方々に,いま注目すべき最先端の研究を紹介していただきました。
岩田教授が総論で述べられているように,80年という長い歴史を持つラマン分光法は気体,液体,固体と,測定対象を選ばず,非常に幅広い試料の測定が可能です。この使い勝手の良さは,使用される光が紫外,可視,近赤外領域であって,この波長領域では空気や水がほぼ透明であるということに起因しているということです。さらに,ラマン分光法は光源や分光器,検出器など,測定者がそれぞれの要求に合った最適なものを選んで独自のラマン分光計を組み立てることができるなど,創意工夫によって測定結果を大幅に向上させることができるという特長を持っています。
ラマン分光法は,ハードウエアを始めとした技術的進歩を幾つも取り入れ,今も進化を続けています。また,我が国の研究水準は世界的に見ても高く,幅広い人材が活躍中です。本文野のより一層の発展を期待しています。
ここ数年,新興国を含めた太陽電池メーカが急増しています。根本的な背景にはフィード・イン・タリフ制度を始めとした各国の普及施策による市場の急拡大があるのですが,一方で製造ノウハウが余りなくても製造装置を買えば後はお任せで,ある程度の品質のものを作れてしまう,太陽電池もいわゆるターンキー製品になりつつあるという状況があるようです。
太陽電池の光電変換効率向上のための研究・開発では,内外の企業,大学,研究機関が熾烈な競争を繰り広げています。その一方で,かつて新興国にキャッチアップされた幾つかの先端技術製品と同じように,太陽電池においても例えば変換効率が少しくらい悪くても気にせず「安かろう,まぁ良かろう」の製品で十分という流れになってしまうのでしょうか。
去る6月22,23日の両日,日本科学未来館において第5回・産業技術総合研究所・太陽光発電研究センター・成果報告会が開かれましたが,発表の中で2004年からスタートした各種太陽電池を用いた発電システムを設置したメガ・ソーラタウンのその後の不具合実例報告がありました。それによると,モジュールの裏面に焦げ付きなどができ,サブモジュールが発電しなくなった不具合が幾つか見つかっているということです。
メーカ点検によるモジュールやパワーコンディショナの交換率も,パワーコンディショナで9%,モジュールの枚数で2%なのですが,これをシステムとして見た場合,32%にもなるということです。メガ・ソーラタウンで実験中の太陽電池発電システムはそれなりの品質のものと思われますが,これが「安かろう,まぁ良かろう」製品で,一般家庭に導入された場合,将来おこり得るトラブルが心配になります。ぜひとも,国際標準に則った信頼性試験法の早急な確立と導入,さらには製品への表示を望みたいところです。

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