1ドルの防災投資が7ドルの被害を防ぐ

地球温暖化の影響なのか、1時間に100mmというこれまでに経験した事のないような集中豪雨が数多く発生して、各地で大きな被害をもたらしています。一方、高度成長期に建設された高速道路や橋といった社会インフラが寿命を向かえる中、その対策をどうするかがいま問われています。

このような状況の中で、光ファイバセンサを防災という観点から社会インフラへ活用して行こうという動きが注目を集めています。10月30日(水)、これをテーマとしたシンポジウムが東京大学で開催されました。

シンポジウム会場

シンポジウムを主催したのは光ファイバセンシング振興協会。同協会はこれまで光防災センシング振興協会という名称で、光ファイバセンサの社会普及と公益寄与を目的に活動を続けてきました。
しかし、最近では光ファイバセンサの活用範囲が防災以外にも予防保全的な応用や新規インフラへの適用、さらにはエネルギー開発等々にまで拡がって来て、同協会の会員層も当初のファイバセンサ開発を目指す企業だけではなく、エンジニアリングや解析、コンサルティングといった光ファイバセンサを事業に活用しようという企業にまで拡がってきた事もあり、この7月に名称を変更、今回は名称を変えてから初めてのシンポジウムだそうです。

光ファイバセンサは、長手方向に分布した温度や歪みを計測する分布計測と、ある特定箇所に設置して温度や歪み等を計測するポイント計測に分ける事ができます。
分布計測はさらにブリルアン散乱光応用センサ(BOTDR)とラマン散乱光応用センサ(ROTDR)、レイリー散乱光応用センサ(OTDR)の三つに、ポイント計測はファイバグレーティング(FBG)型光応用センサ、ファラデー型光応用センサ、透過・遮断型光応用センサの三つに分ける事ができ、様々な用途に使用されます。

今回のシンポジウムでも、盛土工事への光ファイバセンサの適用事例(前田工繊)、光ファイバセンサを利用した地象モニタリング(古河電気工業)、橋梁における面的ひずみ計測(KSK)、建設分野における光ファイバセンサの適用事例(飛島建設)、連続型光センシングによるひずみ・温度計測システム(富士テクニカルリサーチ)、光ファイバセンシングを活用する環境計測(渡辺製作所)、FBG分布センシングによる損傷検知(構造計画研究所)といった、各社が力を入れる多様な方式の光ファイバセンサの特長と実際の適用事例、さらに今後期待できる適用領域への提案が行なわれました。

展示会場

また、シンポジウム会場に隣接する部屋では「デモ並びに実用化センサ見学・体験コーナー」が設置され、発表会員企業の各種センサの展示とデモも披露されました。

シンポジウム第2部では、京都大学・経営管理大学院の関克己客員教授による「わが国の国土とリスク管理への挑戦」と題する基調講演も行なわれました。関教授は建設省で河川局治水課長、北海道開発局長、河川局長、水管理・国土保全局長などを経て、現在は内閣府参与も務めているその道のプロ。
講演では、我が国は大量に作る時代から改築の時代を迎えており、これまでとは違う設計思想が必要として、リスク評価の徹底と社会での共有化が重要と述べる一方、我が国では専門家が評価されていないという点を指摘していたのが印象的でした。

「コンクリートから人へ」といった主張が端的に示すように、インフラに対するネガティブイメージ、防災は無駄という評価もあって、ともすればこれまではモニタリングなどにコストはかけられないという風潮が強かったようです。しかしながら、東日本大震災の経験や社会インフラの寿命が問題視にされるようになった昨今、ようやく風向きが変わりつつあります。

関教授が講演で「防災への1ドルの投資によって防げる被害は7ドルに及ぶ」という発言を紹介していましたが、いま重要なのは誰も反論できないような理想論的、かつ非現実的なスローガンを声高に叫ぶ事ではなく、現実を前提とした中・長期的な視点であると感じた一日でした。

編集顧問:川尻多加志

 

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