三次元で半日

セミナー風景

 12月3日(火)の午後から東京・秋葉原のマイクロマシンセンター新テクノサロンで開かれたマイクロナノ先端技術交流会に参加してきました。

 この交流会は、主催者である一般財団法人マイクロマシンセンターが、MEMS産業の裾野を広げ、その発展を促進するためにマイクロナノイノベータ人材育成プログラム事業の一環として実施しているもの。毎回、大学等において先端的研究に従事する方々を講師に迎え、産学交流を目的に開かれており、今回で24回目を迎えます。

 今回のテーマは「3次元光加工・精密造形技術の最前線」。同分野の最前線で活躍している産業技術総合研究所・先進製造プロセス研究部門・基盤的加工研究グループの岡根利光グループ長と京都大学・工学研究科・材料化学専攻の平尾一之教授を講師に迎え、その研究・開発の最新動向が紹介されました。

 マイクロマシンセンターの青柳桂一専務理事の挨拶の後、トップバッターとして登場した産総研・岡根グループ長は「3Dプリンターのものづくりへの活用」と題して、いま話題の3Dプリンターの種類と特徴、3Dプリンターの鋳造への活用と「超精密三次元造形システム技術開発」プロジェクトへの取り組みを紹介されました。

 この技術は、従来ラピッド・プロトタイピングと呼ばれ、樹脂素材を造形して試作や形状確認に用いられてきましたが、ファイバレーザーの高出力化といった技術的進展によって、近年ではABS樹脂など高品質の樹脂や金属素材の積層が可能になり、そのまま部材に使用できる事が視野に入ってきた事から、俄然注目を集めるようになりました。名称も、今はアディティブ・マニュファクチャリング(AM)と呼ばれています。

 このAMにはシート積層造形(LOM)、溶融積層造形(FDM)、光造形(SLA)、粉末積層造形(SLS/SLM)の四つがあり、基本特許が切れて低価格な製品が出ているのが溶融積層造形で、レーザを用いるのがシート積層造形と光造形、粉末積層造形の三つになります(ただし粉末積層造形には電子ビームを使用するものもあります)。

 講演では、米国やEUのナショナルプロジェクトも紹介され、今後の課題として設計技術、検査技術、製造技術、利用技術の他、標準化・規格化、人材育成、地域産業の底上げ、データの保護制度が重要と指摘されていました。特に標準化・規格化は、我が国がこの産業分野で取り残されないためには必須という印象を受けました。

 二番手の京都大学・平尾教授は、これまでにも平尾誘起構造プロジェクトやナノガラス技術プロジェクト、三次元光デバイス高効率製造技術プロジェクトなど、数々のプロジェクトを牽引してきた事で有名ですが、今回の講演「3次元ナノ光加工の現状と今後の展開」では、京都大学が注力しているナノテクノロジーハブ拠点や超短パルスレーザー加工の研究・開発事例が紹介されました。

 ナノテクノロジーハブ拠点は、京都大学の学際教育研究推進センターのユニットの一つで平成23年5月にスタート。低炭素社会実現に必要不可欠なエネルギーを「創る」「蓄える」「使う」「戻す」を念頭において、様々な革新的次世代材料とナノマイクロデバイスの研究開発を加速するため、多種多様な基板・薄膜材料をウエハレベルでナノ・マイクロ加工・評価ができる各種装置を揃えているそうです。高度な専門技術職員のサポートを受ける事もでき、しかも基本的に情報公開義務がないので、企業が安心して研究・開発を行なえる環境が整っているという事でした。

 さらに講演では、従来切削で行なっていたものを積層で実現する三次元積層造形装置のいくつもの応用例の紹介するとともに、フェムト秒レーザーに代表される短パルスレーザーの加工事例として、色素増感型太陽電池や有機ELディスプレイのガラス真空封止、ガラス中の泡を無くして実現した割れない薄型フレキシブルディプレイや窓用太陽電池、LED高効率化のためのサファイア基板切断、ディスプレイの反射を1/3に抑えたナノ無反射構造パネルやナイトビジョンへの応用、光導波路一括加工、10~20nmといった波長限界を超える加工、非侵襲癌治療、5次元メモリ、ナノワイヤ・ナノ粒子の作製など、非常に幅広い研究・開発が紹介されました。
 
 中でも位相変調型液晶空間光変調器(LCOS-SLM)を併用して1mmの石英ガラス中にCD3枚分のデータ保存に成功して、共同研究者の日立製作所による過酷試験で3億年という耐久性を確認できたというお話は、確か新聞でも紹介されていたと思いますが、これぞ究極のアーカイブメモリという印象でした。

 また、ロームと京都のベンチャー企業アクアフェアリーとの共同研究開発事例として紹介された、その場で水素を作ることができる定置用小型水素源燃料電池は、その二日後の12月5日付け日刊工業新聞の1面で大きく取り上げられるなど、まさにホットな話題がたっぷりの講演でありました。
 
 講演終了後は懇親会も開かれ、参加者と講師の方々との間で熱心なディスカッションが続いていましたが、今後も興味あるテーマの講演企画を期待しています。

編集顧問:川尻多加志

 

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