FT-IR分光計に注目

 赤外分光法は、物質に赤外光を照射した時、透過あるいは反射した光を測定することによって、調べたい試料の構造を解析したり、定量分析を行なうものです。
 赤外分光法で得られる赤外吸収スペクトル(IRスペクトル)は、物質固有のパターンを示しており、赤外分光が古くから活用されてきたこともあり、すでに数十万というデータが存在しています。近年ではコンピュータの発達によって、試料のIRスペクトルとの照らし合わせも格段にスピードアップし、赤外分光法は薬学、農学、生物学などの広範囲な分野で用いられています。
 赤外分光計には分散型とフーリエ変換(FT-IR)型の2種類がありますが、分散型は回折格子を用いて試料を透過した後の光を分散、各波長を順次検出器で検出します。一方のFT-IR型は干渉計を用いていて、分散させずに全部の波長を同時に検出できます。コンピュータでフーリエ変換を行ない、各波長の成分を計算します。
 FT-IR型は分散型に比べ、多波長を同時検出できるので各波長での時間的なズレがなく高速測定も可能です。またスループットが高く、高い波数分解能を有し、測定波数域の拡張が可能といった特長を持っています。歴史は分散型のほうが古いのですが、最近ではFT-IR型が主流になっています。

 9月の初め、幕張メッセで行なわれた「JASIS 2014」で、各社が注力するFT-IR分光計を探ってみました。

日本分光の「FTIR-6000FV」

日本分光の「FTIR-6000FV」

 日本分光の「FT/IR-6000FVシリーズ」は、干渉計および試料室を含めたすべての光路を真空にでき、大気中の水蒸気や炭酸ガスによる妨害ピークを除去することで高感度の測定を可能にしました。
 自動BS交換ユニットと自動窓切換ユニット、もしくは自動ゲートバルブユニットを組み合わせることで、真空状態を保ったまま広い波数範囲の測定を自動で連続して行なう事ができます。
 全反射(ATR)、高感度反射、拡散反射測定用などの付属品を取り揃えています。
 
 

島津製作所の「IRTracer-100」

島津製作所の「IRTracer-100」

 島津製作所の「IRTracer-100」は、SN比が60,000:1、最高分解能0.25cm-1、20回/秒の高速度測定が可能です。固体高分子電解質膜を利用し、干渉計内の水分を電気分解して除去する除湿器を採用。アドバンストダイナミックアライメント機構を搭載することで、従来装置より滑らかで高精度に移動する移動鏡を実現、わずかなウォーミングアップ時間で干渉計の状態を最適かつ安定化させることに成功しました。自己診断、モニタリング技術によって装置の管理も素早く簡単にできるとのことです。1回反射型ならびに水平型ATR、拡散反射、10度正反射、70度または75度高感度反射測定装置など、オプションも豊富。

アジレント・テクノロジーの「Cary 630 FTIR」

アジレント・テクノロジーの「Cary 630 FTIR」

 アジレント・テクノロジーの「Cary 630 FTIR」は最小B5サイズ、重量はわずか3.8kgの超コンパクトFT-IR分光計。豊富なアタッチメントにより透過、各種ATR、拡散反射、10度ならびに45度正反射などの幅広い測定法に対応でき、アライメントフリーのAgilent Flextrue干渉計を採用、専用に開発されたMicro Labソフトウェアによって、すべての操作は画面に表示されるナビゲーションにしたがってボタンをクリックするだけ、誰でも簡単に使用できるとのことです。ハイエンドモデル「Agilent Cary600シリーズFTIR」も出展していました。

サーモフィッシャーサイエンティフィックの「Nicolet iS50R FT-IR」

サーモフィッシャーサイエンティフィックの「Nicolet iS50R FT-IR」

 サーモフィッシャーサイエンティフィックの「Nicolet iS50R FT-IR」は同社リサーチグレードの最高峰モデル。SN比55,000:1、最高波数分解能0.09cm-1、Vectra-Plusステップスキャン干渉計の搭載により130スペクトル/秒の高速スキャン性能を実現。この他、マルチチャンネル並列信号入力対応、位相変調測定やナノ秒時間分解測定が可能なステップスキャン機能を標準搭載しており、さらに4ポジション光源ミラーや3ポジション検出器ミラーなどの拡張機能も標準搭載、拡散反射や1回反射ATRを始め「Nicolet iS50シリーズ」のすべてのアクセサリに対応します。同社はこの他にも、スタンダードタイプやコンパクトタイプも取り揃えています。

ブルカー・オプティクスの「ALPHA」

ブルカー・オプティクスの「ALPHA」

 
 ブルカー・オプティクスのFT-IR分光計「ALPHA」はA4用紙1枚分というコンパクトサイズなので、必要な時に必要な場所に運んで、すぐに分析を行なうことが可能。測定前の煩雑な光学調整等も不要とのこと。モジュール構造を採用したオプションのサンプリングアクセサリを用いれば、透過、ATR、拡散反射、外部反射、1回反射水平型などの幅広い測定法に対応できます。同社は「TANGO」や「MPA」といった近赤外を用いたFT-NIR分光計も取り扱っていて、どちらも干渉計には特許技術であるRockSolid干渉計が採用されています。
 
 
 高機能化や小型化も進み、さらに使いやすくなっているFT-IR分光計。今後の動向に注目です。

編集顧問:川尻多加志

 

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