電子光技術シンポジウム開催(下)

 第4回電子光技術シンポジウム「超短パルスレーザーの応用とポータブルセンサの未来」の後半レポートをお届けします。

 昼食後の午後のセッションは、バイオを中心としたセンシングの最新研究動向報告3本。先ず、産総研・電子光技術研究部門における最新の研究開発成果として、古川祐光氏が「高感度生体分光装置と非侵襲血液計測への応用」の中で、高感度分光技術を用い指先を透過した光の分光情報を分析する非侵襲血液脂質測定技術を紹介。フーリエ分光装置に組み込むシェアリング干渉計に偏光干渉を利用して、偏光状態の異なる二つの干渉信号(インターフェログラム)を得ることでノイズを低減させたとのこと。小型・軽量化を進めて家庭や職場で手軽に利用できることを目指しているそうです。

 続く芦葉裕樹氏は「V溝バイオセンサ」で、V字断面溝チップの開発によってSPRF(表面プラズモン共鳴励起増強蛍光免疫測定)の小型・簡便化を実現したV溝バイオセンサを紹介しました。手で運べるくらいの小型化やV溝センサのチップをポリスチレンから高屈折率ガラスに改良して、一層の電場増強度の向上と高感度化を目指しているとのことです。

 藤巻真氏は「導波モードセンサ:レビュー」で、導波モードセンサの反射膜材料を従来のAuやAgから、ガラスとの密着性が良く物理的・化学的に安定で感度も良好、加工性も高く扱いやすいSiに変更して、具体的には、SiO2基板の上に単結晶Si層を作り、さらにその上にSiO2層を乗せたモノリシック検出板を開発したとのこと。手のひらサイズの小型化やチャンネル数も最大19チャンネルのものも開発中で、センサーチップに穴を形成したラベルフリー検出、ウィルスや金属、重金属の検出、めっき液の劣化測定、血液の凝集観察、エンドトキシンの検出など、幅広い応用例を紹介しました。

 その後に続く招待講演は、慶應義塾大学・理工学部・教授の鈴木孝治氏の「センシング材料と化学センサ開発」、東京医科歯科大学・生体材料工学研究所・教授の宮原裕二氏の「固液界面の機能化とバイオトランジスタ」、産総研・環境管理技術研究部門の鳥村政基氏の「アジア水プロジェクトにおける水質センサ開発」の3本。

 鈴木氏は、生体などのin vivo計測用分子センサと微小な選択的測定プローブ、さらにマイクロチップのような集積化したマルチセンサを分子レベルから構築するための機能性センシング分子の設計と合成およびデバイス化・システム化に取り組んでいて、その医療、環境、食への計測応用を紹介。複数の電気化学センサとニューラルネットワーク情報解析技術を用いた味覚センサを実用化して、大学発ベンチャーも起業したそうです。

 宮原氏は、DNAシーケンシング技術を始め、半導体を用いた各種のバイオセンサについて紹介した上で、高感度化や高密度アレイ化、集積化といった特長を活かし切るようなアプリケーションを開発することの重要性を指摘していました。

 鳥基氏は、産総研の六部門で進めている水プロジェクトと各種センサを紹介。アジア、特に中国における水不足は深刻で、使用した水を再利用しないと間に合わないというのが実情。そこで、水を監視しながらその情報を水処理の現場にフィードバックするスマートウォーターが注目を集めています。講演では、危険か危険でないかが直ぐに分かる、光合成生物素子やヒト細胞を用いたセンサ等が紹介されましたが、光ディスクを用いたセンサは、培養が不要で、光学顕微鏡で22時間もかかっていた検出が僅か0.2時間で検出できるそうです。水ビジネスにおいては、GEなどが膜分離活性汚泥検査用の各種センサメーカーの買収を重ねシェアを拡大させている中、アジアにおける日本企業のシェアは低く、技術を持っているのにビジネスができていないと警鐘を鳴らしていました。

 最後は、招待講演者の方々と産総研の研究者によるセンシングの将来に関するパネルディスカッションが行なわれました。テーマは「センサ開発の将来展望」。パネラーは鈴木孝治氏(慶應義塾大学)、宮原裕二氏(東京医科歯科大学)、鳥村政基氏(産総研・環境管理技術研究部門)、藤巻真氏(産総研・電子光技術研究部門)の四人とモデレーターは粟津浩一氏(産総研・電子光技術研究部門)。
 
 ここでは「ビジネスとして、より成長させるには?」や「信頼性を向上させるには?」といった点について議論が展開されましたが、ビジネス面ではやはりコストダウンによるセンサおよび検査機器の低価格化が重要のようです。一方で、高性能化や小型化との矛盾をどのようにクリアするか、薬事法に対する根気力も必要との指摘もありました。信頼性については、検査精度の向上はもちろんですが、コストの安い簡易検査と精密検査の上手な使い分けが重要といった意見が出されていました。

 さらに、閉会の挨拶に立った電子光技術研究部門長の原市聡氏は、ICTと融合したユーザー側に立った新しいものづくりが必要で、インフラやテロといったリスク解決のため、国立研究開発法人となる産総研は大学、企業、公的研究機関と連携していきたいと述べていました。
 この日は冷たい雨がそぼ降る一日でしたが、シンポジウムの後に会場を移して開かれた情報交換会では、和やかな雰囲気の中、会場のあちこちで熱い議論が繰り広げられていました。(終わり)

編集顧問:川尻多加志

 

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