進化する自動車と光技術

 自動車技術会主催による「人とくるまのテクノロジー展2015」が5月20日から22日までの3日間、パシフィコ横浜にて開催されました。
 主催者発表によれば、出展社は過去最高の538社(1,150小間)、来場者は3日間で86,939人に上ったとの事です。ランプやヘッドアップディスプレイ(HUD)等、会場を回って目についた光技術関連の展示をいくつか紹介します。

小糸製作所◆小糸製作所:LEDランプの次を狙って、半導体レーザーとPOFに有機EL(OLED)を組み合わせた新しいコンセプトのリアコンビネーションランプ「Ray Motion Ⅱ」を展示しました。半導体レーザーから出た光をPOFに通すことで自由な線状のデザインが可能になり、有機ELを多数並べてそれぞれを菱形面状に発光、この組み合わせによってLEDでは成し得ない多様な表現が可能になりました。5年後の実車搭載を想定して開発を進めているそうです。同社ではレーザーとLEDを組み合わせて、発光部面積を小さくしたヘッドランプも開発しています。

市光工業◆市光工業:内外の自動車に搭載されている各種LEDビームユニットを展示しました。写真左側の上段がLEDアダプティブドライビングビームユニット(左側がパターン可変式、右側がシェード可変式)、中段がLEDハイビーム&ロービームバイファンクションユニット(左側がツインレンズタイプ、右側がシングルレンズタイプ)。下段がLEDロービームユニット(左側がプロジェクター+レンズタイプ、真ん中が標準プロジェクタータイプ、右側がリフレクタータイプ)。写真右側の上・下段は、LED光源、LED駆動回路、放熱部品、光源ソケットが一体となった低価格・小型のソケット型標準LED光源ユニットです。

三菱電機◆三菱電機:液晶方式(写真左)とレーザースキャン方式(右)のHUDを比較展示しました。外観はどちらも同じで、2.1m前方に17インチ相当の画像を投影します。液晶方式の解像度800×200、色再現性41%、コントラスト1000:1に対し、レーザースキャン方式の解像度は、レーザースポットの位置ずれと収差を低減して1280×320を実現。色再現性についてもRGB三色のレーザーを用いているので、145%という色域を持っています。またコントラストは7000:1で、表示領域の白浮きを低減して夜間における優れた視認性を実現。消費電力についても、表示部だけレーザーを点灯させるため、液晶方式の1/10に抑える事ができたとの事です。

矢崎総業◆矢崎総業:ナビゲーション情報や安全運転に関する情報等、車両内外の情報量増加に対応するために、HUDの大画面化とカラー化を実現。従来品は表示寸法が62.8×31.4mm、表示デバイスがVFDドット、表示色がブルーやグリーンの単色であったのに対し、開発品では表示寸法240×90mmと面積比1100%増の大型化に成功、表示デバイスはTET-LCDを採用して、表示色はRGBになりました。光学系を高倍率化する事で非球面ミラーと表示デバイス間の距離を短くして、最少パッケージで大画面を実現したそうです。また、同社は車載用の光通信コネクタも展示、ギガビットイーサネットに適用可能で、SI型POFとLEDを採用、40mの距離で1Gbpsの高速伝送ができ、使用温度範囲は-40℃~105℃との事です。

日本精機◆日本精機:ドライバーに提供される情報の多種多様化に対応するため、各種ステータス情報(車速や標識情報等)と動的な運転支援情報(ルートガイドや前方・死角障害物警告等)とを遠近二画面で空間的に切り分けたHUDを展示しました。遠方表示は世界初の傾斜面で行なって、表示距離が連続的に変化するとの事。実際の背景とHUD表示の親和性を高め、ドライバーの視覚への自然でスムーズな情報提供が行なえます。遠方は3~5mの傾斜面(5m前方で29インチ相当の画面)になっていて、近傍は2.5m前方に8インチ相当の画面が表示されます。遠近二画面は一つの表示デバイスで実現したそうです。

ヴァレオジャパン◆ヴァレオジャパン:レーザースキャナー「SCALA」は、開口角の大きなレーザーで車両前方を広範囲にわたってスキャン、車やバイク、歩行者、さらには静止物である木や停止している車、ガードレールも検知します。また、検知されたデータをもとにして、検知障害物ごとに種類分けされたデータとともに、車両周辺マップが作成されるそうです。昼夜を問わず同等性能を発揮するとともに、高速道路における高速走行時も、駐車場などにおける低速走行時にも対応するとの事。カメラと組み合わせた自動運転システムの公道実車デモも実施したそうです。

ボッシュ◆ボッシュ:SVCステレオビデオカメラ等、各種カメラを展示しました。同カメラは高速・モデルフリー三次元計測および視差計測を採用しており、障害物、歩行者、フリースペースの有無を計測します。パターン化されていない物体の認識が可能で、解像度は1280×960ピクセル(1.2メガピクセル)、水平方向50°、垂直方向28°の視野角を有しているとの事。
  
  

 この他にも、日立オートモティブシステムズがステレオカメラやビジョンシステムを、クラリオンが360°オールサラウンドオーバーヘッドビューカメラシステム、デンソーが画像センサとミリ波レーダセンサを組み合わせたアクティブセイフティーシステム、カルソニックカンセイがHUDとマルチディスプレイ、フルカラーTFTメーター等を一体化したCPM/HMI(コックピットモジュール/ヒューマンマシンインターフェース)等を展示していました。

 なお、月刊オプトロニクスの8月号で「進化する自動車を支える注目の光技術(仮題)」と題する特集を企画しました。最新の研究開発事例を紹介していただく予定ですので、こちらも乞うご期待を。

編集顧問:川尻多加志

 

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