脱水銀の流れの中のUV-LED(上)

会場風景

 5月27日(水)、東京・江東区の都立産業技術研究センター・イノベーションハブにおいて、日本照明委員会(JCIE)と照明学会 計測・標準分科会の主催による「第33回JCIEセミナー UV-LEDの技術開発・市場投入の現状とエネルギー計測上の課題」が開催されました。
 2012年、環境負荷の低減を目的とした水銀に関する国際条約(水俣条約)が締結されました。これを受け、いま脱水銀と紫外線光源のLED化の流れが加速しています。一方、水俣条約では工業用ランプが規制の対象外になっていますが、一部の応用分野では、これまでに用いられてきた紫外線ランプからUV-LEDへの切り替えも進んでいます。

 このような状況の中、今回のセミナーではSSL(LEDや有機ELなどの半導体照明)光源の普及予測やUV-LED素子の研究開発状況、市場投入の現状や課題が取り上げられ、さらに従来から問題が多いとされていたUVエネルギー計測における課題や2015年に開発・供給がスタートしたUV-LED標準についての最新情報が紹介されました。少し長くなりますので、二回に分けてレポートします。

 このテーマが注目を集めているのを象徴するような満席の会場において、JCIE副会長であるパナソニックの斎藤孝氏が開会挨拶を行ない、引き続き東海大学の竹下秀氏は「工業分野におけるUV光源の重要性」の中で、太陽光のUVエネルギー絶対量計測を始め、これまでのUV計測への関わりを述べるとともに、現在の我々の生活空間の大部分がUVを活用して作られていると指摘。21世紀においては、省エネ化や有害物質の使用制限、安全・安心社会実現のため、UVをこれまでのように単純に使うのではなく、今後は管理して使っていかなければならないと述べました。

 「照明ビジョン2020」と題する講演を行なった日本照明工業会の内橋聖明氏は、昨年10月に同工業会が策定した「照明成長戦略2020」を紹介。内橋氏は、SSL器具の世界市場は拡大するが、一方の国内出荷比率は2020年に100%に近づくものの、市場数量規模の大きな拡大は望めないと指摘。単価下落も始まっており、出荷金額は横ばいから、やや減少に推移するとともに、交換ランプ全体の出荷数量も長寿命化LED光源の器具一体化等によって年々減少、このような市場動向から照明業界が成長するには、海外事業の拡大、高付加価値化、新光源等による用途拡大など、新たな市場開拓と拡大策が必須としています。
 また、性能表示と実力が乖離した粗悪な製品を市場から排除するためにも、公正で適切な競争ができる健全な市場の再構築が必要と述べ、標準化の推進、試験所の育成・整備と第三者認定の制度化、市場監視体制の確立を目指すと述べました。
 同工業会では、2020年までにCO2の排出量削減(2006年比30%削減)、水銀使用量削減(2006年比90%削減)を掲げ、特殊分野を除く一般照明器具分野で2020年までに国内SSL器具出荷率を100%(一般住宅用は2016年までに100%)に、国内SSL器具設置比率を50%にまで普及させる事を目標に掲げています。

 続く理化学研究所の平山秀樹氏は「UV-LEDの技術開発とその課題」と題して、UVC-LEDに関する研究開発の最新動向を報告しました。AlGaN系半導体はバンドギャップエネルギーがUVAからUVCまで広くカバーしている事に加え、有害材料も含まないため、UV発光素子を実現する材料として最適と言われています。また、青色LEDの外部量子効率(EQE)が10%を超えた2000年頃から市場が飛躍的に拡大した事を考えると、現時点で研究トップデータが10%程度を超えたUVC-LEDも、今後5年から10年で殺菌用途を中心に大きく市場が展開すると予測されています。
 平山氏は、AlGaN発光層から高効率な発光を得るために、アンモニアパルス供給多段成長法を考案、これによりAlN下地層の貫通転移密度を従来比1/100程度に低減させ、内部量子効率(IQE)を60%以上増強する事に成功しました。さらにAlGaNにInを混入する事で、IQEを推定80%に高める事にも成功。加えて、多重量子障壁(MQB)の導入で電子注入効率(EIE)も80%以上に改善、220~240nmの短波長LEDの高出力化に成功しました。
 光取り出し効率(LEE)向上については、p-AlGaN透明コンタクト層とAl系高反射p型電極による反射取り出し効果を用いるとともに、AlN裏面へのフォトニック光取り出し構造形成とサファイア基板の剥離方法を併用する事で70%以上が可能と指摘。研究では1.7倍のLEE向上を観測して、EQEも10%に迫る値が得られたそうです。これらの手法を用いて、250~280nmで30mW以上の室温CW出力を達成しており、237nmでも5mWのCW出力が得られたとの事です。(続く)

編集顧問:川尻多加志

 

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