脱水銀の流れの中のUV-LED(下)

 5月27日(水)、東京・江東区の都立産業技術研究センター・イノベーションハブにおいて開かれた、日本照明委員会(JCIE)と照明学会 計測・標準分科会の主催の「第33回JCIEセミナー UV-LEDの技術開発・市場投入の現状とエネルギー計測上の課題」の後半レポートをお届けします。

 理化学研究所・平山秀樹氏の講演に続き、日亜化学工業の松下俊雄氏は「UV-LED製品の開発とその応用用途」の中で、自社製品を例にとって応用の現状を報告しました。同社は、ブラックライト応用において消費電力5Wで20W型蛍光灯ブラックライトと同じUV光量を実現、UV-LEDの搭載個数を増やして10Wで40W型蛍光灯ブラックライトと同じUV光量も実現したそうです。
 現在、UV-LEDはオフセット印刷の9割に用いられており、この他にも塗装応用、風力発電用の羽根の補修やトンネルの補修等、土木工事への応用、日焼けランプや捕虫ランプ、光触媒と組み合わせた殺菌用など、幅広い分野への応用が期待されています。
 変わったところでは「2015~16年の秋冬パリ・コレクション」の舞台照明に、同社の半導体露光機(i線ステッパー)用UV-LEDが用いられたそうで、衣装にUV光を当てると、目に見えない蛍光塗料の柄が浮かび上がる幻想的な雰囲気を醸し出したとの事です。

 休憩を挟んで「UV-LED全放射束標準の開発と供給」を報告したのが、産業技術総合研究所の木下健一氏。UV-LEDの開発と普及が進む中、製品に対する顧客からの信頼確保、社内での製品の品質管理のためにトレーサビリティの取れた測定が求められています。ところが、紫外域における光放射の絶対測定の難しさもあって、それが十分に行なわれていなかったのが実情。UV-LED測定のニーズの高まりの中、同研究所ではより簡単で信頼性のあるUV-LED全放射束標準を開発しました。
 全放射束を校正する方法には、球形光束計を用いる方法と配光測定を用いる方法の二つがあり、さらに球形光束計を用いる方法は、参照標準に分光全放射束標準を用いるものと分光放射照度標準を用いるものに分かれます。もう一方の配光測定を用いる方法は、分光放射照度標準を用いるものと分光応答度標準を用いるものに分かれます。
 各々の標準には整備状況や不確かさがあり、同研究所のUV-LEDの全放射束校正では、より不確かさの小さい測定を行なうため、分光応答度標準を参照標準として用いる受光器を利用した配光測定法が採用されました。講演では全放射束の校正に影響を与える様々な不確かさについても言及されました。

 東海大学の竹下秀氏は「UVエネルギー計測の課題」で、数多くのUV計測器が市販されている中、UVエネルギーの計測に関しては20世紀から抱える課題の大部分が未だ解決されていないと指摘。大部分のUV計測器の使用者が、その計測値が正確だと誤認していると警告しました。
 UV計測法には化学計測と生物計測、物理計測の三つがありますが、今回の講演は物理計測に絞って行なわれました。UV計測器は光の入射方向によって出力が変化し、製品の個体差が存在する事を認識する必要があり、実際の計測ではUV計測器の受光面よりはるかに大きいUV光源を非常に短い距離で計測する場合が多いので、極めて大きな計測誤差が生じるそうです。
 また、反射型回折格子とリニアダイオードアレイを組み合わせたファイバー入力形分光器は、検出に使っていない迷光を完全に遮断できないため、校正値そのものの取り扱いに注意する必要があるそうです。
 木下氏は、分野ごとのUV計測器の規格が必要と述べるとともに、選定にあたっては測定対象、光源、分光感度、測定波長、迷光レベル、測定強度域、入射方向特性等の様々なスペックが明記されている製品を選ぶべきと述べ、安価な製品に大きく書かれているCEマークはあくまで取り扱いに関する電気的安全に対するものであって、測定の特性を保証するものではないと注意を喚起していました。

 最後に、それぞれの講演者への質疑応答が活発に行なわれましたが、照明学会 計測・標準分科会幹事長でもある竹下氏は、閉会の挨拶の中で「ぜひ照明学会とJCIEに参加していただき、情報交換を行なう事で、社会がより一層豊かになるよう一緒に取り組んで行きたい」と述べ、半日に及ぶセミナーの幕を閉じました。
(終わり)

編集顧問:川尻多加志

 

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