太陽電池の国際競争力

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 前回のブログでは、太陽電池の購入時の値段だけではなく、長期信頼性も大切だという事を述べましたが、3月5日(水)、東京・千代田区のイイノホールにおいて、産業技術総合研究所(産総研)太陽光発電工学研究センターによる「第Ⅱ期高信頼性太陽電池モジュール開発・評価コンソーシアム」の最終成果報告会が開催されました。
 そこで、今回はコンソーシアムの概要と研究成果のいくつかを、講演と配布資料を元に報告します。

 このコンソーシアム設立目的は、部材メーカーに市販サイズの太陽電池モジュールの試作と信頼性評価の技術プラットフォームを提供して、そこで得られた知見を還元して部材開発を行なうとともに、メーカー間の自由競争を誘発するオープンイノベーションを具現化して、太陽電池モジュールの信頼性・寿命を大幅に改善(寿命2倍以上)、発電コストの大幅低減と他国の追随を許さない独創的技術を創出して、日本の太陽光発電産業の国際競争力を強化するというものです。
 
 平成21年10月に第Ⅰ期の「高信頼性太陽電池モジュール開発・評価コンソーシアム」が設立され、平成23年4月からは第Ⅱ期に移行、この時にメンバーも大幅に拡充して、この3月までの3 年間研究開発を続け、今回の成果報告会に至ったという流れになっています。

 主な研究目標としては(1) 屋外長期曝露による各種太陽電池モジュールの劣化機構の解明。太陽電池モジュールの寿命を正確に知るための屋外曝露時の劣化因子を反映させた新規信頼性試験法の開発。信頼性試験に要する時間短縮のための高加速試験法の開発。(2)産総研・九州センター内の市販サイズ対応太陽電池モジュールの試作・評価プラットフォームを用いて、充填材、バックシート、配線材、シール材等の新規部材、あるいは新規構造を適用した太陽電池モジュールを試作。試作モジュールの信頼性試験・屋外曝露試験を通じて部材・構造の有用性を実証して、メンバー企業の事業化を加速。これら新規部材を適用した長寿命モジュールの実現。(3)系統的かつ大規模な各種試験の結果やメンバーからの提供データ、さらには各種調査等に基づいて、太陽電池モジュール部材に関するデータベースを構築。メンバーから派遣された研究員の人材育成を図るとともに、人的ネットワークを構築する、の三つに分かれています。

 コンソーシアムは産総研、A会員、B会員、C会員、協力機関の四つで構成されていて、中でも研究開発の主体は産総研、A会員、B会員の三つ。それぞれの主な役割は以下の通りとなっています。

◇産総研
・市販サイズに対応した太陽電池モジュールの試作・評価に関するプラットフォームを構築してA・B会員との共同研究に提供、必要な各種知見をメンバーに提供する。
・メンバーから提供を受ける部材に関する知見を活用して、これまでに蓄積した長期曝露試験結果等のデータに基づき、太陽電池モジュール劣化機構の解明を加速する。
・モジュールの信頼性・寿命判定をより短時間に的確に行なう新規信頼性試験法の開発に取り組む。

◇A会員
新規信頼性試験法の開発とモジュール部材・構造に対する要求特性の明確化と国際規格・標準への反映に結びつく技術開発を目的に、産総研と共同で(1)長期暴露モジュールの詳細調査(2)テストモジュールによる劣化因子の明確化(3)新規信頼性試験法の開発、の三つのコアテーマに取り組む。

◇B会員
・太陽電池モジュールの信頼性向上・長寿命化、効率向上、製造コストの低減に結びつく技術開発を目的に、B会員の機関内で開発した各種モジュール用部材をコンソーシアムに持ち込み、太陽電池モジュールを試作・評価することで部材開発を進める。
・共通課題の解決に向け、モジュール部材の基準策定に資するデータを収集・共有してデータベース構築に寄与する。

 今回の報告会では数多くの成果が発表されましたが、ここではA会員の成果をいくつか紹介します。

◆出力低下の原因は、モジュール内の酢酸残留量との事です。ただし、発生した酢酸の一部はバックシート等を経て、外に排出されているとも考えられるとの事。排出された酢酸がどの程度の時間、モジュール内に留まっていたかで劣化に与える影響も異なると思われるので、排出速度の検証も必要としていました。また、屋外曝露時には、紫外光照射による酢酸生成も生じていると思われるのに対し、高温高湿試験では加水分解による酢酸生成のみが生じるため、両者は一対一に対応すべきではないとも述べていました。

◆結晶系モジュールにおいては、水蒸気バリア性の低いバックシートほど、高温高湿試験に対する劣化が小さかったそうです。この事は、モジュールの劣化が単に水蒸気の浸入によって起きるのではなく、直接的には封止材の加水分解によって発生する酸の影響による事を示唆しているので、この事はバックシートや封止材の材料設計には大きなインパクトを与えると述べていました。

◆塩水噴霧処理後の電圧誘起劣化(PID)試験の結果、劣化が促進されたので、沿岸部においてはPIDが起きやすいとの事です。

◆PIDについては、シリコンリッチ反射防止膜の採用等でPID 対策品と称するセルが出回っていて、すでにPIDは解決したとの意見もあるが、まだ解決しなければならない課題があると指摘していました。屋外で発生するPID 現象を再現可能な試験法を確立する事と部材のスクリーニング試験として、短時間でPID を起こす試験法の開発が重要と指摘していました。

◆屋外曝露で生じる劣化と信頼性試験で生じる劣化の差異に注目して、屋外環境に一層近い試験条件の探索と試験時間を短縮できる高加速試験方法の開発に成功したとの事です。

 最後に、B会員の研究においてもバックシートや封止材、配線材において標準の部材を用いた場合より信頼性の高いデータが得られるなど、数多くの成果が報告されていました。

編集顧問:川尻多加志

 

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