マイノリティからマジョリティへ

 2、3年前までの植物工場用の光源と言えば蛍光灯が主流で、LEDはあくまで傍流というイメージがありました。最大の理由がイニシャルコストです。確かに、LEDはランニングコストは安いのですが、設備を作る時の初期投資がどうしても高くなってしまいます。
 ビジネスの先行きが確実に読めない場合、最初にかかる費用をなるべく抑えたいというのは正直、当たり前の話で、結局は蛍光灯が選ばれてしまうというのが実情でした。

 ところが、最近ではその流れが少しずつではありますが、変わってきたように思えます。確かにイニシャルコストは蛍光灯よりも高いのですが、LEDそのもののコストダウンも進み、さらに電気代が安くて長寿命という従来の特長に加え、LEDを使った栽培法の進歩によって、植物の育成速度や同じ期間でも収穫量が多いといった利点をアピールして、その存在感を高めているようです。

 先月、東京ビッグサイトで開催された「スマートコミュニティ Japan 2014」の中の「農業ビジネスソリューション展」でも、その傾向を垣間見る事ができました。 

昭和電工

昭和電工

 LED高速栽培法で、出荷サイクルの短縮と同じ期間でも約2倍の大きさの野菜を育てる事ができるとアピールするのが昭和電工です。
 同社は、山口大学・農学部の執行正義教授と共同でLED高速栽培法「SHIGYO法」を開発しました。これは、光合成用の赤色LED(波長660nm)と青色LED(波長450nm)を組み合わせたもので、植物の品種によって、この赤色と青色の最適な比率を見出し、経時的に照射強度を変えるという仕組みになっています。
 さらに、LED照明に特化した反射板内蔵の照明取り付け構造を採用した栽培ユニットも開発、均一な照射を実現しました。
 その結果、リーフレタスの一種であるレッドファイヤーで、蛍光灯を使用した場合に42日かかったものを32日で収穫、10日間の収穫サイクル短縮に成功しました(通常のLEDだと35日ほど)。大きさについても、同じ日数で約2倍に成長するとの事です。育成対象はレタスやハーブ、ほうれん草、水菜など、水耕栽培が可能な植物で、同社では事業化の検討から稼動までをサポートするとしています。

大阪府立大学・植物工場研究センター

大阪府立大学・植物工場研究センター

 植物工場に関する要素技術の総合的な開発に取り組んでいる大阪府立大学・植物工場研究センターでは、民間企業とコンソーシアムを形成して、レタスやハーブ等の葉菜類に関しての収量増大、コスト縮減のための栽培管理技術の実証を行なっています)。

 同センターが2011年から実施している「GREEN CLOCKS(GC)新世代植物工場の実証・評価イノベーション拠点」では産学共同で、植物の体内時計を制御して効率的な育成を行なうための時計遺伝子診断技術(さきがけプロジェクト)を活用した先進的な研究成果やLED光源の全面的な採用、ロボットを活用した自動搬送システムなどを駆使して、生産コスト40%縮減の実証・評価に取り組んでいます。

荏原電産

荏原電産

 荏原電産の完全閉鎖制御型植物栽培装置にも、LEDが採用されています。
装置には植物工場用と家庭用(店舗・業務用)の2種類がありますが、植物工場用には光源昇降装置付きのLEDランプが使われています。
光源部を上げたり下げたりして、植物の育成状況に合わせた照度を選べます。

 アルミスが提案する植物工場の光源は、基本的には蛍光灯ですが、顧客の要望によってオプションでLED照明を選択する事ができます。
例えば天井の高い位置まで多段にする場合などは、光源を交換する手間がかからないLEDがお薦めだそうです。

 成電工業の野菜栽培装置は、工場用や家庭用のものは基本的に蛍光灯ですが、店舗用ではインテリア性を考慮してLEDを採用。同社では、現状では蛍光灯の方が形の良い野菜ができると述べていましたが、LEDを用いた育成実験は今後も進めて行くとしています。

 現状で蛍光灯を用いている企業も、かつてのように「LEDなんてとんでもない」という、けんもほろろの対応から、顧客の要望に合わせてとか、設置条件によっては、というような柔軟な対応に変わってきていて、少なくともLEDは市民権を得たような気がします。希望的観測も含めてですが、アピールの仕方によっては後一歩でマイノリティからマジョリティになるのでは?

編集顧問:川尻多加志

 

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