再生エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)導入からたった2年で、太陽光発電設備の認定容量は6,303万kWに達しました。このうち本当に発電しているのは、その十分の一の643万kWですが(経済産業省・資源エネルギー庁発表:2014年3月末時点)、認定設備の全てが発電を開始したら(例え、パネル価格の低下を待って運転を見合わせたり、権利の転売だけを目的にした一部業者の認定を取り消したとしても)どうなってしまうのか、心配する声も聞こえてきます。状況は、まさに「太陽がいっぱい」のようです。
6月24、25の両日、つくば国際会議場において産業技術総合研究所(産総研)主催による「AIST 太陽光発電研究 成果報告会 2014」が開催されました。
産総研では現在、つくばの「太陽光発電工学研究センター」、九州の「太陽電池モジュール信頼性評価連携研究体」、今年4月に福島で活動を開始した「福島再生可能エネルギー研究所」の三つの拠点において、太陽光発電に関する研究・開発を行なっていますが、今回の成果報告会では、その最新の研究・開発成果が披露されました。
成果報告会一日目は、太陽光発電工学研究センターの松原浩司・副研究センター長の開会の辞でスタート、産総研の矢部彰・理事が開会の挨拶を行ない、NEDO新エネルギー部の橋本道雄・部長が来賓挨拶、経産省・資源エネルギー庁・省エネルギー・新エネルギー部・新エネルギー対策課の村上敬亮・課長が「再生可能エネルギーを巡る現状と課題」と題する特別講演を行いました。
続く太陽光発電工学研究センターの仁木栄・研究センター長による講演「産総研における太陽光発電研究開発戦略と太陽光発電工学研究センターの活動概略」の後は、結晶シリコン太陽電池、化合物薄膜太陽電池、薄膜シリコン太陽電池に関する最新の研究・開発動向が紹介されました。
昼食後の午後には色素増感太陽電池、有機系太陽電池、超高効率化技術、モジュール技術、評価技術、システム技術に関する最新の研究・開発成果が発表され、引き続き東工大の黒川浩助・特任教授による「より安心・安全な太陽光発電システムへ-規格標準化などの動向」と、資源総合システムの一木修・代表取締役社長による「エネルギーとして新たな段階を迎えた太陽光発電システム-太陽光先進国家実現を目指して」と題する招待講演が行なわれ、この日のプログラムは終了。
私は出席できなかったのですが、二日目は福島再生可能エネルギー研究所の紹介、トピックス講演、ポスターセッションなどが行なわれました。
講演でも太陽光発電設備の事故の具体例が紹介されていましたが、完成1ヵ月後の真新しいメガソーラーでも火災は発生しています。その原因は分からないそうです。また、太陽光発電設備が強風で20m以上も飛ばされ、電柱と自動車に激突する事故もあったのですが、この事故は公式な事故統計に入っていないとの事です。欧州では建材一体型で火災も起こっています。現状では安全のための規制は不十分で、安全・安心なシステムは結果としてコストが安いという事を強く訴える必要があるようです。
太陽光発電が本当に信頼される普通のエネルギーとして定着するには、国民が負担するコストを如何に下げる事ができるかが非常に重要です。今後の課題としては、パネルの信頼性向上はもちろん、太陽光発電と系統接続を統合するための研究・開発、さらにはリサイクルやリユース体制の整備も必要でしょう。
太陽光発電は既に入りすぎていて、大量導入期は終わったという興味深い意見も聞かれました。これからは、短期間で利ざやを稼ぐ訪問販売業者ではなく、厳しい環境下で長期の競争ができる業者こそが大切になってきます。ひどい例では、住民の了解なしで山林を切り倒してしまう業者もいるそうです。
従来の大規模太陽光発電所においては、太陽光発電以外の各種エネルギーのコンビネーションによって安定供給電源化を目指す必要があります。さらに、これから重要になってくるのが分散型のエネルギー安定供給システムです。地産地消を目指すこのシステムにおいても、蓄電池や変圧器の開発は非常に重要です。太陽光発電による環境マネジメントシステムを用いたソリューション技術も、日本が率先して提案すべきという提案も出ていました。
これまでのFITをベースとした収益モデルから、太陽光発電が本来持っている特性をベースとした技術市場への展開が求められています。太陽光発電は、もう次のフェーズに入るべきでしょう。
編集顧問:川尻多加志