進化するラマン分光装置

 光を物質に入射すると、反射、屈折、吸収などの他に、散乱という現象が起こります。散乱光のほとんどは入射光と同じ波長のレイリー散乱光ですが、ごく僅か入射光とは違う波長の光が含まれています。ラマン散乱光です。
 ラマン分光装置は、このラマン散乱光の性質を調べることで物質の分子構造や結晶構造などを非接触、非破壊で調べる事ができます。無機化合物、有機物、固体、液体、気体、粉末など、私たちの回りの殆どのものを測定できて、特別な前処理も要りません。
 東京ビッグサイトで先月開催された「インターフェックスジャパン」でも、このラマン分光装置がいくつか出展されていました。

サーモフィッシャーサイエンティフィックの携帯型ラマン分光分析装置「TruScan RM」

サーモフィッシャーサイエンティフィックの携帯型ラマン分光分析装置「TruScan RM」

 欧米を初め日本においても、医薬品の製造分野では品質管理が強化され、原料の受け入れ時に全ての容器に対しての原料の同一性検査が求められています。

 サーモフィッシャーサイエンティフィックの携帯型ラマン分光分析装置「TruScan RM」は、重量が1kg以下と軽量で、どこにでも持ち運び可能、特異性と再現性の高い結果を数秒で判定します。焦点距離とスポットサイズが固定されていて、露光時間・積算回数も自動調整してくれるので、測定者によっておこる誤差もないとのことです。同社は、判定を類似性評価ではなくスペクトルのみで行なうので、完全一致判定ができるとアピールしています。容器の外からでも測定は可能です。
この他、同社では卓上タイプのDXRxiイメージング顕微ラマン、DXRレーザーラマン、DXR Smartラマンなどを取り扱っています。

樋口商会のSciAps製ラマン分光光度計「Inspector500」

樋口商会のSciAps製ラマン分光光度計「Inspector500」

 樋口商会のSciAps製ラマン分光光度計「Inspector500」は、波長1030nmのレーザを搭載。1.7kgと小型・計量を実現するとともに、防水・防塵仕様で、グローブを着用していても片手の親指走査で簡単に操作ができます。これまでの785nmレーザでは測定が難しかった微結晶セルロース、クロスカルメロース、葉酸などの栄養素を含む、ほぼ全てのラマンアクティブコンパウンドに対して信頼性の高い計測を実現、蛍光の強いサンプル計測を可能にしました。
 
 
  
 
スペクトリスのMalvern製「Morphologi G3-ID,G3SE-ID」

スペクトリスのMalvern製「Morphologi G3-ID,G3SE-ID」

 スペクトリスのMalvern製「Morphologi G3-ID/G3SE-ID」は、粒子径と粒子形状の物性情報を測定する従来品にラマン分光システムを統合した複合機で、化学情報の測定もできるようになりました。アプリケーションは、医薬品やセラミックス、電池の粉砕条件の検討や効率的な結晶多形のスクリーニング、異物解析など、多岐に渡るとのことです。

 
 
  
 

日本分光のレーザラマン分光光度計「NRS-4100」

日本分光のレーザラマン分光光度計「NRS-4100」

 日本分光のレーザラマン分光光度計「NRS-4100」は、省スペースを実現するとともに、誰にでも扱えて、メンテナンス性も高めた製品。アライメントの調整やレーザ光源、リジェクションフィルタなどの切り換えを自動化、測定操作や解析作業をアシストするソフトによって、研究開発だけでなく品質管理にも利用できるとのことです。赤外顕微鏡では測定が困難な1μm程度の微小試料が測定できるとアピールしています。
 
 
  
 

リガクの携帯型ラマン分光計「Progeny」

リガクの携帯型ラマン分光計「Progeny」

 リガクの携帯型ラマン分光計「Progeny」は、1064nm励起によって蛍光の重畳を防止。小型・軽量のハンディタイプで、バッテリ駆動による機動性も兼ね備え、現場に持参して迅速に化合物の同定ができます。ガラス容器や透明バッグの外からも測定が可能となっています。

     
  
   

 
 
 ラマン分光装置は、より現場で使いやすい装置へと進化を続けているようです。

編集顧問:川尻多加志

 

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太陽がいっぱい

 再生エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)導入からたった2年で、太陽光発電設備の認定容量は6,303万kWに達しました。このうち本当に発電しているのは、その十分の一の643万kWですが(経済産業省・資源エネルギー庁発表:2014年3月末時点)、認定設備の全てが発電を開始したら(例え、パネル価格の低下を待って運転を見合わせたり、権利の転売だけを目的にした一部業者の認定を取り消したとしても)どうなってしまうのか、心配する声も聞こえてきます。状況は、まさに「太陽がいっぱい」のようです。

 6月24、25の両日、つくば国際会議場において産業技術総合研究所(産総研)主催による「AIST 太陽光発電研究 成果報告会 2014」が開催されました。

 産総研では現在、つくばの「太陽光発電工学研究センター」、九州の「太陽電池モジュール信頼性評価連携研究体」、今年4月に福島で活動を開始した「福島再生可能エネルギー研究所」の三つの拠点において、太陽光発電に関する研究・開発を行なっていますが、今回の成果報告会では、その最新の研究・開発成果が披露されました。

 成果報告会一日目は、太陽光発電工学研究センターの松原浩司・副研究センター長の開会の辞でスタート、産総研の矢部彰・理事が開会の挨拶を行ない、NEDO新エネルギー部の橋本道雄・部長が来賓挨拶、経産省・資源エネルギー庁・省エネルギー・新エネルギー部・新エネルギー対策課の村上敬亮・課長が「再生可能エネルギーを巡る現状と課題」と題する特別講演を行いました。

 続く太陽光発電工学研究センターの仁木栄・研究センター長による講演「産総研における太陽光発電研究開発戦略と太陽光発電工学研究センターの活動概略」の後は、結晶シリコン太陽電池、化合物薄膜太陽電池、薄膜シリコン太陽電池に関する最新の研究・開発動向が紹介されました。

 昼食後の午後には色素増感太陽電池、有機系太陽電池、超高効率化技術、モジュール技術、評価技術、システム技術に関する最新の研究・開発成果が発表され、引き続き東工大の黒川浩助・特任教授による「より安心・安全な太陽光発電システムへ-規格標準化などの動向」と、資源総合システムの一木修・代表取締役社長による「エネルギーとして新たな段階を迎えた太陽光発電システム-太陽光先進国家実現を目指して」と題する招待講演が行なわれ、この日のプログラムは終了。

 私は出席できなかったのですが、二日目は福島再生可能エネルギー研究所の紹介、トピックス講演、ポスターセッションなどが行なわれました。

 講演でも太陽光発電設備の事故の具体例が紹介されていましたが、完成1ヵ月後の真新しいメガソーラーでも火災は発生しています。その原因は分からないそうです。また、太陽光発電設備が強風で20m以上も飛ばされ、電柱と自動車に激突する事故もあったのですが、この事故は公式な事故統計に入っていないとの事です。欧州では建材一体型で火災も起こっています。現状では安全のための規制は不十分で、安全・安心なシステムは結果としてコストが安いという事を強く訴える必要があるようです。

 太陽光発電が本当に信頼される普通のエネルギーとして定着するには、国民が負担するコストを如何に下げる事ができるかが非常に重要です。今後の課題としては、パネルの信頼性向上はもちろん、太陽光発電と系統接続を統合するための研究・開発、さらにはリサイクルやリユース体制の整備も必要でしょう。

 太陽光発電は既に入りすぎていて、大量導入期は終わったという興味深い意見も聞かれました。これからは、短期間で利ざやを稼ぐ訪問販売業者ではなく、厳しい環境下で長期の競争ができる業者こそが大切になってきます。ひどい例では、住民の了解なしで山林を切り倒してしまう業者もいるそうです。

 従来の大規模太陽光発電所においては、太陽光発電以外の各種エネルギーのコンビネーションによって安定供給電源化を目指す必要があります。さらに、これから重要になってくるのが分散型のエネルギー安定供給システムです。地産地消を目指すこのシステムにおいても、蓄電池や変圧器の開発は非常に重要です。太陽光発電による環境マネジメントシステムを用いたソリューション技術も、日本が率先して提案すべきという提案も出ていました。

 これまでのFITをベースとした収益モデルから、太陽光発電が本来持っている特性をベースとした技術市場への展開が求められています。太陽光発電は、もう次のフェーズに入るべきでしょう。

編集顧問:川尻多加志

 

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マイノリティからマジョリティへ

 2、3年前までの植物工場用の光源と言えば蛍光灯が主流で、LEDはあくまで傍流というイメージがありました。最大の理由がイニシャルコストです。確かに、LEDはランニングコストは安いのですが、設備を作る時の初期投資がどうしても高くなってしまいます。
 ビジネスの先行きが確実に読めない場合、最初にかかる費用をなるべく抑えたいというのは正直、当たり前の話で、結局は蛍光灯が選ばれてしまうというのが実情でした。

 ところが、最近ではその流れが少しずつではありますが、変わってきたように思えます。確かにイニシャルコストは蛍光灯よりも高いのですが、LEDそのもののコストダウンも進み、さらに電気代が安くて長寿命という従来の特長に加え、LEDを使った栽培法の進歩によって、植物の育成速度や同じ期間でも収穫量が多いといった利点をアピールして、その存在感を高めているようです。

 先月、東京ビッグサイトで開催された「スマートコミュニティ Japan 2014」の中の「農業ビジネスソリューション展」でも、その傾向を垣間見る事ができました。 

昭和電工

昭和電工

 LED高速栽培法で、出荷サイクルの短縮と同じ期間でも約2倍の大きさの野菜を育てる事ができるとアピールするのが昭和電工です。
 同社は、山口大学・農学部の執行正義教授と共同でLED高速栽培法「SHIGYO法」を開発しました。これは、光合成用の赤色LED(波長660nm)と青色LED(波長450nm)を組み合わせたもので、植物の品種によって、この赤色と青色の最適な比率を見出し、経時的に照射強度を変えるという仕組みになっています。
 さらに、LED照明に特化した反射板内蔵の照明取り付け構造を採用した栽培ユニットも開発、均一な照射を実現しました。
 その結果、リーフレタスの一種であるレッドファイヤーで、蛍光灯を使用した場合に42日かかったものを32日で収穫、10日間の収穫サイクル短縮に成功しました(通常のLEDだと35日ほど)。大きさについても、同じ日数で約2倍に成長するとの事です。育成対象はレタスやハーブ、ほうれん草、水菜など、水耕栽培が可能な植物で、同社では事業化の検討から稼動までをサポートするとしています。

大阪府立大学・植物工場研究センター

大阪府立大学・植物工場研究センター

 植物工場に関する要素技術の総合的な開発に取り組んでいる大阪府立大学・植物工場研究センターでは、民間企業とコンソーシアムを形成して、レタスやハーブ等の葉菜類に関しての収量増大、コスト縮減のための栽培管理技術の実証を行なっています)。

 同センターが2011年から実施している「GREEN CLOCKS(GC)新世代植物工場の実証・評価イノベーション拠点」では産学共同で、植物の体内時計を制御して効率的な育成を行なうための時計遺伝子診断技術(さきがけプロジェクト)を活用した先進的な研究成果やLED光源の全面的な採用、ロボットを活用した自動搬送システムなどを駆使して、生産コスト40%縮減の実証・評価に取り組んでいます。

荏原電産

荏原電産

 荏原電産の完全閉鎖制御型植物栽培装置にも、LEDが採用されています。
装置には植物工場用と家庭用(店舗・業務用)の2種類がありますが、植物工場用には光源昇降装置付きのLEDランプが使われています。
光源部を上げたり下げたりして、植物の育成状況に合わせた照度を選べます。

 アルミスが提案する植物工場の光源は、基本的には蛍光灯ですが、顧客の要望によってオプションでLED照明を選択する事ができます。
例えば天井の高い位置まで多段にする場合などは、光源を交換する手間がかからないLEDがお薦めだそうです。

 成電工業の野菜栽培装置は、工場用や家庭用のものは基本的に蛍光灯ですが、店舗用ではインテリア性を考慮してLEDを採用。同社では、現状では蛍光灯の方が形の良い野菜ができると述べていましたが、LEDを用いた育成実験は今後も進めて行くとしています。

 現状で蛍光灯を用いている企業も、かつてのように「LEDなんてとんでもない」という、けんもほろろの対応から、顧客の要望に合わせてとか、設置条件によっては、というような柔軟な対応に変わってきていて、少なくともLEDは市民権を得たような気がします。希望的観測も含めてですが、アピールの仕方によっては後一歩でマイノリティからマジョリティになるのでは?

編集顧問:川尻多加志

 

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エレクトロニクスの夜明け

記念祝賀会風景

記念祝賀会風景

 東京工業大学・栄誉教授の末松安晴先生の日本国際賞受賞のニュースは、今年1月30日の当ブログでも紹介させていただきましたが、その記念講演会「エレクトロニクスの夜明け」が6月9日(月)、東京商工会議所ビル・東商ホールで開催されました。

 ブログと重複しますが、末松先生の受賞は「大容量長距離光ファイバー通信用半導体レーザーの先導的研究」が、インターネットを始めとする情報ネットワークを支える大容量長距離光ファイバー通信に道を拓いたとして、その功績が認められたもの。

 当日は400名は超えると思われる数多くの光エレクトロニクス分野を中心とした関係者が出席、講演では末松先生を含め、エレクトロニクスの発展に大きく貢献された五人の先駆者の方々が登壇、その研究の歴史と将来展望を語られました。一部ではありますが、個人的に印象に残った内容をレポートします。

 講演会は、伊賀健一・東京工業大学名誉教授の総合司会のもと、三島良直・東京工業大学学長の挨拶で始まりました。招待講演のトップバッターは霜田光一・東京大学名誉教授です。「量子エレクトロニクスの夜明け」と題して、エレクトロニクスの夜明け前から量子エレクトロニクスの起源、誘導放出と反転分布、メーザおよびレーザの発明、さらには量子エレクトロニクスの今後の発展を、レーザ発明の時の秘話などを交えながら、連続的な視点を持って解説されました。

 その次は、岩崎俊一・東北工業大学理事長による「垂直記録:大容量ストレージと文明」。先生の垂直磁気記録は発表当初から大きく注目され、一般の新聞から科学雑誌に至るまで様々取り上げられましたが、危機感を持った米国は、この新技術を知るために日本語の学会誌の英訳版を発行するようになったそうです。それは米国が喧伝した日本の基礎研究ただ乗り批判に対する、日本からの強烈な返礼でもありました。講演の結びとしての「科学技術の目標は新しい文明を築く事にあるという事を強く意識すべきだ」という言葉には重いものがあります。

 三番目は、1973年のノーベル物理学賞受賞者である江崎玲於奈・横浜薬科大学学長による「新しい世界を開くリサーチフロンティア」。死者10万人に及んだ東京大空襲の翌朝8時、東京大学では何事もなかったかのように、物理実験に関する講義が行なわれていました。先生はその姿を見て、アカデミズムの凄みを感じたそうです。また「真空管をいくら改良してもトランジスタは生まれてこない」や「チャンスの女神は準備をしている人間にやって来る」といった言葉も印象的でした。13才から19才までのティーンズに対する教育の重要性も指摘されていました。

 招待講演としての最後は、長尾真・京都大学名誉教授の「社会基盤としての情報学」。長尾先生は郵便番号の読み取りなどの文字認識、人の顔の解析認識といった画像処理、科技庁プロジェクトでの日英機械翻訳、言語情報処理、電子図書館の研究開発を行なってきました。今後の重要な課題として、ネット上で次々作られる情報を、どのように組織化すれば有用な情報を取り出し利用できるようになるかという事と、人とロボットなどのシステムや機械と機械、機械とシステムがお互いに対話して、目的を達成できるようになる事を挙げられていました。多言語翻訳によって、世界中の人々が相互理解し、諍いや戦争のない社会の実現に貢献したいとの言葉は、世界中で紛争が多発する今の時代、大きな意味を持つと感じました。

 そして、最後が末松先生の記念講演「半導体レーザ:光ファイバ通信システムへの道」です。先生は1974年、位相シフトを有する周期的構造を用いた反射器を半導体レーザーに集積化することを提案、高速変調時に発振波長が安定する動的単一モードレーザーの概念へと発展させるとともに、光ファイバー損失が最小となる1.5μm帯のInGaAsPレーザーの室温連続発振を実現、1981年これらの技術を組み合わせ位相シフトを有する反射器を集積化したInGaAsPレーザーの1.5μm帯室温連続発振に成功して、動的単一モード動作を世界で初めて実証されました。日本国際賞の受賞理由です。
 今回の講演では、大容量長距離光ファイバ通信実現のために(1)長波長性、(2)単一波長性(単一モード性)、(3)波長可変性の三つの要件を同時に備えた半導体レーザの開発の前に立ち塞がる数々の課題を如何にクリアして行ったかを語られました。ご自身の信条である「この世にないものを創る」事と「原理を明らかにする」事は、今こそ大切にしなければならない姿勢だという印象を強く受けました。

 もう一つ、驚いたのが各講演に一人ずつ付いた司会者の方々の顔ぶれです。神谷武志・東京大学名誉教授、大野英男・東北大学電気通信研究所所長、榊裕之・豊田工業大学学長、酒井善則・電子情報通信学会会長、さらに2000年のノーベル化学賞受賞者の白川英樹・筑波大学名誉教授といった豪華な面々、流石と言うしかありません。
 最後に、講演会終了後は場所を東京會舘9階のローズルームに移して、記念祝賀会が盛大に行なわれた事を付け加えておきます。

 なお、末松先生の詳しい業績については、私がインタビューをさせていただいた記事がオプトロニクス5月号に掲載されていますので、宜しければお読みになってください。

編集顧問:川尻多加志

 

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網膜にレーザ

6月6日(金)と7日(土)の両日、東京大学駒場リサーチキャンパス公開が行なわれました。初日はあいにくの大雨、帰りには靴の中までびしょ濡れになってしまったのですが、何か面白いものはないかなと、兎にも角にも行ってまいりました。

展示ブース風景 正門から入って左手、しばらく歩くと、生産技術研究所のE棟1階のエレベータホールに、前々回のブログでも取り上げたナノ情報エレクトロニクス研究機構と光電子融合研究センターの展示ブースを発見。
ブースでは、量子ドットやフォトニック結晶などを用いた電子・光子制御に関する研究を始め、ナノ光デバイスや高効率太陽電池などへの応用研究を紹介していましたが、何やら奥のテーブルの前で、眼鏡型のウェアラブルディスプレイを掛けている人がいます。近くに行って話を聞いてみると、それは同研究機構とQDレーザが共同で開発した「レーザアイウェア」という名前のウェアラブル情報端末でした。

ウェアラブル情報端末「レーザアイウェア」

ウェアラブル情報端末「レーザアイウェア」

使われているのは液晶?それとも有機EL?と思って訊ねると、レーザを網膜に走査しているとの事。今回、「レーザアイウェア」の基盤技術開発に成功して、装着感や外観が通常の眼鏡と違和感のない眼鏡型情報端末の製品化に目処をつけたという事で、お披露目に至ったそうです。

レーザ網膜走査型ディスプレイは、1990年代の初めに提案されたもので、液晶等を用いたものに比べて、高輝度・高色再現性・広視野角という特長を持っています。また、自在なサイズと自在な位置画像を得る事ができ、さらには近眼や老眼など、装着した人の視力を選ばないフォーカスフリーという特長も持っています。ただ、これまでに数社が開発してきましたが、実用レベルの製品は未だ現れていないというのが現状だそうです。

今回の「レーザアイウェア」は、ナノテクを駆使して独自に開発したレーザ網膜走査光学系を基盤技術としていて、その光学系は赤・緑・青の三原色半導体レーザからのレーザ光をMEMSミラーで反射・走査して、瞳孔を通して網膜上に映像を描写するという仕組みになっています。現状のサイズは全幅162mm、通常の眼鏡と変わらない装着感で完全なシースルー画像も得られ、他方式に比べてサイズ、省電力、コスト面で優位性が高いとの事です。

網膜にレーザとなると、気になるのが安全性ですが、現状の照射パワーはJIS/IECの基準で、設計上本質的に安全性が求められるクラス1に属しているそうです。今後は、大きな電流が入ると壊れてしまうフェールセーフな出力の小さな半導体レーザを搭載して、より安全性を高めるとしています。

製品化については、レーザ網膜走査光学系の小型化・低消費電力化をさらに進めて、2015年末には作業支援用として有線タイプのものを、2017年末には民生用として無線タイプのものを製品化して、市場開拓を進めて行く計画だそうです。

昔、「見えすぎちゃって困るの」というコマーシャルソングがありましたが(これ知っている人はかなりの歳だと思いますが)、この手のもの「頑張っているんだけど、もう少し・・・」と内心思ってしまうものも多い中、今回のはちょっとインパクトがありました。普及を期待してます。

編集顧問:川尻多加志

 

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自動車の高度化に貢献する光技術

自動運転技術が注目を集めています。そんな中、5月21日(水)から23日(金)の三日間、パシフィコ横浜において「人とくるまのテクノロジー展2014」が開催されました(主催は自動車技術会)。主催者発表によれば、来場者数は三日間で8万7,523人、出展社数491社、小間数は1,082小間でした。会場を歩いて、光技術関連で目についたものを、一部ですが紹介します。

会場内に設置されていた企画展示コーナー。自動運転技術関連では、日産自動車がそれぞれ5台のレーザスキャナとカメラを搭載して、周囲360度の状況を常時把握できる自動運転技術を搭載した「リーフ」を展示していました。

東大 石川・渡辺研の勝率100%じゃんけんロボット

東大 石川・渡辺研の勝率100%じゃんけんロボット

 ZMPはレーザセンサやステレオカメラを取り付けて自動運転や予防安全技術開発に活用できる自動運転車開発プラットフォームを、アイサンテクノロジーはGPS、カメラ、レーザスキャナなどを搭載して、走行するだけで道路周辺の3次元情報を記録できる高精度移動体計測車両「三菱モービルマッピングシステム」を展示していました。

大学関係では、金沢大学・菅沼研究室がオンボードセンサを用いた自立型自動運転の研究を紹介。
東京大学の石川・渡辺研究室は、勝率100%のじゃんけんロボットを展示していましたが、これは高速ビジョンと高速ロボットハンド、コントローラで構成されています。この素早い反応は自動運転への応用が期待できるでしょう。

MCパイオニアOLEDライティングのフルカラー有機EL照明とサンバイザー

MCパイオニアOLEDライティングのフルカラー有機EL照明とサンバイザー

MCパイオニアOLEDライティングは、発光層150nm、パネル厚8.7mmの超薄型と、14cm角という世界最大級の大きさ、さらに調光・調色機能も付けた世界初のフルカラー有機EL照明を出展。
この有機EL照明付きのサンバイザーも展示していました。

 
 
 

三菱レイヨンの光ファイバー織物

三菱レイヨンの光ファイバー織物


 
   
 
三菱レイヨンの内装照明用面発光デバイス(光ファイバー織物)は、布のような仕上がりになっていて、曲面にインストールできるというもの。間接照明の柔和な光なので快適な照明設定が可能との事です。面受光センシングや情報インプットのインターフェースとしての役割も期待できるとしています。
  
 

小糸製作所の配光可変型ヘッドランプ

小糸製作所の配光可変型ヘッドランプ


小糸製作所の配光可変型ヘッドランプは、車載カメラで前方車両を認識してヘッドランプの配光を全自動で制御します。
我が国では歩行者の死亡事故の約70%が夜間に発生していますが、これを予防するためハイビームを使用すると、対向車や先行車のドライバに眩しさを与えてしまいます。
配光可変型ヘッドランプは、対向車や先行車のドライバに眩しさを与えることなく、路側にいる歩行者のみを明るく照らす事ができます。
 
  
カルソニックカンセイのワイドスクリーンオンザシーンHUD

カルソニックカンセイのワイドスクリーンオンザシーンHUD


  
 

カルソニックカンセイのワイドスクリーンオンザシーンHUD(ヘッドアップディスプレイ)は、ドライバーの前方視界内にカーナビの経路や歩行者、車速、燃料残量などを表示して、運転の安全性を向上させる事ができます。
フロントガラスに18インチの大型表示が確保できるとしています。
 
 
 

矢崎総業のHUD

矢崎総業のHUD


矢崎総業のHUDは、左右のディスプレイと合わせて連携した表示が可能で、HUD開口部を見せない構造になっているそうです。
同社は、POFを用いたギガビット伝送が可能な車載用光通信コネクタも紹介していました。

東芝の車載用CMOSエリアイメージセンサは、高ダイナミックレンジ機能によって明暗コントラスト比が高い被写体において明暗諧調を広げ、被写体を自然に映し出す事ができます。
またカラーノイズリダクション機能によって、低照度撮影においても豊かな色彩表現が可能との事です。

この他、住友化学のシースルー型有機薄膜太陽電池、住化スタイロンポリカーボネートの特定波長が透過できるセンサー用ポリカーボネート、ヴァレオジャパンの車両周辺対象物を検知するレーザースキャナー、イエナオプティックジャパンの各種レーザ加工機、ポリテックジャパンの3Dスキャニング振動計、日本レーザーの画像解析式粒径計測システム等々、数々の光技術関連製品も出展されていた事を付け加えておきます。

入場者数8万7,523人という数字は、昨年90万人を集めた東京モーターショーに比べれば、もちろん少ないですが、テクノロジー専門の展示会で、この人数ですから、やはり自動車産業の裾野は広いという感じですね。

編集顧問:川尻多加志

 

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グリーンで安全な情報社会の実現を

 5月19日(月)と20日(火)の両日、東京大学・本郷キャンパスの伊藤国際学術研究センターにおいて、東京大学ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構主催による「ナノ量子情報エレクトロニクス連携研究拠点」プロジェクト公開シンポジウム「ナノ量子情報エレクトロニクスの新展開」が開催されました(共催:東京大学大学院理学系研究科附属フォトンサイエンス研究機構、光電子融合基盤技術研究所、後援:光産業技術振興協会)。

 「ナノ量子情報エレクトロニクス連携研究拠点」は、平成18年度科学技術振興調整費(現・地域産学官連携科学技術振興事業費補助事業)先端融合領域イノベーション創出拠点の形成プログラムの一つとして採択されたプロジェクト。3年目の平成20年度に、当初採択された9件のプロジェクトが4件に絞られるという非常に厳しい再審査が行なわれたが、それを見事に通過、平成27年度までの10年間プロジェクトとして進行中のものです。

 プロジェクトの目標はズバリ、将来のグリーンで安全な情報社会の実現に向けて、超ブロードバンド、超安全性、超低消費電力を備えた情報システム基盤技術の確立。このプロジェクトを推進する中核的研究組織が「東京大学ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構」です。平成18年10月に東京大学が総長室直轄の学内横断組織として設立したもので、研究機構長は荒川泰彦・生産技術研究所教授。同大学が持つナノ技術、量子科学、ITの「知」を結集し、海外を含めた学外研究組織とも強い連携を図りつつ、ナノ量子情報科学技術分野における世界拠点形成を目指し、その充実化を図っているとの事です。

 プロジェクトではこれまで、拠点形成を通じて量子ドットを始めとするナノ技術、量子科学、ITの先端領域の融合による次世代デバイスの開発を推進してきたが、より高度な量子暗号通信や量子計算機の動作実証に向けた量子情報技術の確立も推進中で、量子ドット太陽電池など、エネルギーデバイスの基盤研究も行なっています。

 具体的な研究活動はシャープ、NEC、日立製作所、富士通研究所、QDレーザの五つの協働企業が東大内に各「東大企業ラボ」を設置、特定研究テーマを幹にしながら、広く東京大学内にシーズを探索する、いわゆる「T型連携」のもと、場とビジョンを共有した産学協働研究を推進しています。現在では複数企業間の連携研究への発展など、連携スタイルも含めて、成果を着々と生み出しており、特にベンチャー企業であるQDレーザはビジネスモデルを含め、広範な分野へ量子ドットレーザの市場展開を図るとともに、イノベーション創出の実績を築きつつあるとの事です。

 今回の公開シンポジウムでは、富士通研究所、日立製作所、シャープ、NEC、QDレーザの各代表者が研究開発とイノベーションへの取り組みについて講演を行なうとともに、機構に参画している研究者による最新の研究成果が報告され、まさに世界に冠たる我が国のナノ量子情報エレクトロニクスの一大拠点における最先端の研究情報が披露されました。
 中でも初日に行なわれたノーベル物理学賞受賞者・江崎玲於奈氏による特別講演「新しいリサーチフロンティアの開拓」は、先進的な研究に関わる方々にとっては、とても示唆に富む内容で、その中でも特に興味深かったのは、講演最後に江崎氏が述べられた「ノーベル賞を取るために、してはならない5カ条」。その5か条、以下に紹介します。

 第1:今までの行き掛かりやしがらみに捉われてはいけない。
    真実を見失い、創造力は発揮できない。
 第2:大先生を尊敬し、教えを受けるのはよいが、心酔してはいけない。
    自由闊達な自分を失う。
 第3:情報の大波の中で、自分に無用なものまでも抱え込んではいけない。
    役立つものだけを取捨選択する。
 第4:自分の主張を貫くため、戦うことを避けてはいけない。
 第5:いつまでも初々しい感性と飽くなき好奇心を失ってはいけない。

 「人生には理不尽な事を言われる時もある。その時は戦え!」とおっしゃっていたのがとても印象的でした。

編集顧問:川尻多加志

 

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アーカイブ領域で頑張る光ディスク

 先週(5月14日~16日)、東京ビッグサイトにおいて「データストレージEXPO」が開催されました。「クラウドコンピューティングEXPO」を含め、11もの展示会が同時開催された「2014 Japan IT Week 春」の内の一つとして開催されたものです。「データストレージEXPO」自体は30社弱の出展規模。他の展示会が大きいため、あまり目立たないという印象を持ったのは仕方のない事かもしれません。

 データストレージに使われるメディアというと、磁気テープやハードディスク、最近では半導体メモリなどを思い浮かべる人が多いと思いますが、それじゃ光ディスクはどうなってるの?と、展示会に行ってきました。

 ハードディスクの保存寿命は約5年、磁気テープは約10年と言われています。一方の光ディスク(ブルレイ・ディスク:BD)の寿命は約50年とも推定されています。長期間のアーカイブに適していると言われる所以です。
 この他にも、データの移し変えを頻繁に行なう必要がないのでマイグレーションにかかる費用が少なくて済むし、低消費電力、さらには再生機が下位互換性を持っているため、再生機に係る費用も少なくて良いといった特長を持っています。
 
 さて、展示会を光ディスクというキーワードで探してみたら創朋、日本テクノ・ラボ、リマージュジャパン、さらにパイオニアと三菱化学メディア、オプティカルエキスパートの3社共同出展ブースを見つける事ができました。

 創朋は光ディスク自動アーカイブシステム、日本テク・ノラボは同社のソフトを組み込んだソニー製ならびにパナソニック製光ディスクアーカイブシステム、リマージュジャパンは光ディスク記録装置と盤面印刷機を出展していましたが、個人的に興味深かったのはオプティカルエキスパート、パイオニア、三菱化学メディアの3社共同出展ブースで聞いた話でした。

HIT社のBDライブラリー

HIT社のBDライブラリー

 オプティカルエキスパートの展示説明員の方によれば、今年の1月29日、facebookのインフラストラクチャー・エンジニアリング担当のJay Parikh副社長は、Open Compute Summit会場において、アクセス頻度の下がった写真やビデオデータ、いわゆるコールド・データの保存にBDを使用すると発表したそうです。

 Parikh氏は、コールド・データ専用のデータセンターで使用するため、1万枚のディスクを収容できるライブラリー装置を紹介して、従来のハードディスクを用いたものに比べ、コスト50%、消費電力は80%削減できると述べました。現状はメディア1枚が100GBで、トータルとして1PBの容量ですが、これを数年後には5PBにするとも述べたそうです。このライブラリー装置は、オプティカルエキスパートが国内ディストリビューターを担当しているドイツのHIT社とfacebookが共同開発したものとの事です。

 3社の共同展示ブースでは、パイオニアも光学ドライブとライティングソフト、三菱化学メディア製の業務用BDをパッケージしたアーカイブシステムを紹介していました。
 このシステムには、電子化文書の長期保存方法を定めたJIS Z6017に準拠した長期保存用(図書館や博物館における貴重な資料や公文書資料用)と一定期間保存用(企業管理文書や製造業における設計データ、試験機関における試験データ用)の2種類があるのですが、使用する光ディスクはBD-Rで50GBと100GBの2タイプ、推定寿命は前述したように50年で、海中に1週間放置してもデータの再生が可能だそうです。
 そう言えば、東日本大震災で津波被害にあった光ディスクのデータが、クリーニングで復元できたという話を思い出しました。

 どっこい、光ディスクはアーカイブ領域で頑張っています。

編集顧問:川尻多加志

 

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太陽電池の国際競争力

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 前回のブログでは、太陽電池の購入時の値段だけではなく、長期信頼性も大切だという事を述べましたが、3月5日(水)、東京・千代田区のイイノホールにおいて、産業技術総合研究所(産総研)太陽光発電工学研究センターによる「第Ⅱ期高信頼性太陽電池モジュール開発・評価コンソーシアム」の最終成果報告会が開催されました。
 そこで、今回はコンソーシアムの概要と研究成果のいくつかを、講演と配布資料を元に報告します。

 このコンソーシアム設立目的は、部材メーカーに市販サイズの太陽電池モジュールの試作と信頼性評価の技術プラットフォームを提供して、そこで得られた知見を還元して部材開発を行なうとともに、メーカー間の自由競争を誘発するオープンイノベーションを具現化して、太陽電池モジュールの信頼性・寿命を大幅に改善(寿命2倍以上)、発電コストの大幅低減と他国の追随を許さない独創的技術を創出して、日本の太陽光発電産業の国際競争力を強化するというものです。
 
 平成21年10月に第Ⅰ期の「高信頼性太陽電池モジュール開発・評価コンソーシアム」が設立され、平成23年4月からは第Ⅱ期に移行、この時にメンバーも大幅に拡充して、この3月までの3 年間研究開発を続け、今回の成果報告会に至ったという流れになっています。

 主な研究目標としては(1) 屋外長期曝露による各種太陽電池モジュールの劣化機構の解明。太陽電池モジュールの寿命を正確に知るための屋外曝露時の劣化因子を反映させた新規信頼性試験法の開発。信頼性試験に要する時間短縮のための高加速試験法の開発。(2)産総研・九州センター内の市販サイズ対応太陽電池モジュールの試作・評価プラットフォームを用いて、充填材、バックシート、配線材、シール材等の新規部材、あるいは新規構造を適用した太陽電池モジュールを試作。試作モジュールの信頼性試験・屋外曝露試験を通じて部材・構造の有用性を実証して、メンバー企業の事業化を加速。これら新規部材を適用した長寿命モジュールの実現。(3)系統的かつ大規模な各種試験の結果やメンバーからの提供データ、さらには各種調査等に基づいて、太陽電池モジュール部材に関するデータベースを構築。メンバーから派遣された研究員の人材育成を図るとともに、人的ネットワークを構築する、の三つに分かれています。

 コンソーシアムは産総研、A会員、B会員、C会員、協力機関の四つで構成されていて、中でも研究開発の主体は産総研、A会員、B会員の三つ。それぞれの主な役割は以下の通りとなっています。

◇産総研
・市販サイズに対応した太陽電池モジュールの試作・評価に関するプラットフォームを構築してA・B会員との共同研究に提供、必要な各種知見をメンバーに提供する。
・メンバーから提供を受ける部材に関する知見を活用して、これまでに蓄積した長期曝露試験結果等のデータに基づき、太陽電池モジュール劣化機構の解明を加速する。
・モジュールの信頼性・寿命判定をより短時間に的確に行なう新規信頼性試験法の開発に取り組む。

◇A会員
新規信頼性試験法の開発とモジュール部材・構造に対する要求特性の明確化と国際規格・標準への反映に結びつく技術開発を目的に、産総研と共同で(1)長期暴露モジュールの詳細調査(2)テストモジュールによる劣化因子の明確化(3)新規信頼性試験法の開発、の三つのコアテーマに取り組む。

◇B会員
・太陽電池モジュールの信頼性向上・長寿命化、効率向上、製造コストの低減に結びつく技術開発を目的に、B会員の機関内で開発した各種モジュール用部材をコンソーシアムに持ち込み、太陽電池モジュールを試作・評価することで部材開発を進める。
・共通課題の解決に向け、モジュール部材の基準策定に資するデータを収集・共有してデータベース構築に寄与する。

 今回の報告会では数多くの成果が発表されましたが、ここではA会員の成果をいくつか紹介します。

◆出力低下の原因は、モジュール内の酢酸残留量との事です。ただし、発生した酢酸の一部はバックシート等を経て、外に排出されているとも考えられるとの事。排出された酢酸がどの程度の時間、モジュール内に留まっていたかで劣化に与える影響も異なると思われるので、排出速度の検証も必要としていました。また、屋外曝露時には、紫外光照射による酢酸生成も生じていると思われるのに対し、高温高湿試験では加水分解による酢酸生成のみが生じるため、両者は一対一に対応すべきではないとも述べていました。

◆結晶系モジュールにおいては、水蒸気バリア性の低いバックシートほど、高温高湿試験に対する劣化が小さかったそうです。この事は、モジュールの劣化が単に水蒸気の浸入によって起きるのではなく、直接的には封止材の加水分解によって発生する酸の影響による事を示唆しているので、この事はバックシートや封止材の材料設計には大きなインパクトを与えると述べていました。

◆塩水噴霧処理後の電圧誘起劣化(PID)試験の結果、劣化が促進されたので、沿岸部においてはPIDが起きやすいとの事です。

◆PIDについては、シリコンリッチ反射防止膜の採用等でPID 対策品と称するセルが出回っていて、すでにPIDは解決したとの意見もあるが、まだ解決しなければならない課題があると指摘していました。屋外で発生するPID 現象を再現可能な試験法を確立する事と部材のスクリーニング試験として、短時間でPID を起こす試験法の開発が重要と指摘していました。

◆屋外曝露で生じる劣化と信頼性試験で生じる劣化の差異に注目して、屋外環境に一層近い試験条件の探索と試験時間を短縮できる高加速試験方法の開発に成功したとの事です。

 最後に、B会員の研究においてもバックシートや封止材、配線材において標準の部材を用いた場合より信頼性の高いデータが得られるなど、数多くの成果が報告されていました。

編集顧問:川尻多加志

 

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多すぎるプレーヤー

 2月26日(水)から28日(金)までの3日間、東京ビッグサイトで「PV EXPO 2014」が開催されました。当然、国内外の太陽電池セル・モジュールメーカーが数多く出展していましたが、予想通りと言いますか、海外メーカーのあまりの多さには改めて驚かされました。
 
 太陽光発電協会によると、日本の太陽電池市場における外資系シェアは、2013年で28%に達し、12年度に比べ5ポイントも上昇したそうです(3月7日付け日経産業新聞13面)。

 日本の電力固定価格買い取り制度(FIT)は、ドイツなどの欧州各国に比べ、2倍ほど高い水準にあります。価格は、税抜きで42円から36円へ下がり、さらに2014年度には32円に下がる予定ですが、電力会社にはこれを20年間買い取ることが義務付けられています。

 こんなに美味しいビジネスはありません。様々な業種の企業が参入して来て、我が国の再生可能エネルギー認定設備の発電量は、昨年6月までに2,291万kWに達しました。その後も認定申請は続いていますし、毎日のように建設に関するニュースが産業系の新聞を賑わしています。

 外資系メーカーの製品は、日本メーカーのものより1割から4割も安いと言われています。少しでも安い太陽電池を使えば、より儲かるわけですから、外資系メーカーがシェアを伸ばすのは当然かもしれません。
 ドイツなどでは自国のメーカーが破綻してしまい、何のためのFITだったのか、なんて声も聞こえてきます。今回の展示会でも、言葉は悪いのですが、日本のFITという「蜜」に群がる蟻というような状況がおきていました。
 
 会場をざっと歩いてみて、気がついた外資系関連メーカーを順不同で記してみます。あまりに多かったので、見落としや見間違いがあるかも知れませんが、ご容赦ください。なお、企業名表記は会場案内図に基づきました。

【中国】
HTソーラー、ZNSHINE PV-TECH、ジンコソーラー、DMEGC、LIGHTWAY GREEN NEW ENERGY、
SUNHAPPY POWER、PHONO SOLAR TECHNOLOGY、JIANGYIN CHANGXIN INDUSTRIAL、
SUNCOME SOLAR、GK SOLAR POWER、Upsolar、CSG PVTECH、JIANGSU RUNDA PV、
レネソーラ、EOPLLY NEW ENERGY TECHNOLOGY、REAL FORCE POWER、
インリー・グリーンエナジー、ビーワイディー、ZHEJIANG TRUNSUN SOLAR、JA SOLAR、
LDKソーラーテック、トリナ・ソーラー、サンテライト、テルサンパワー、
HANERGY、GCL-POLY ENERGY、SHANDONG DAHAI

【台湾】
アブリテック、アポロソーラーエナジ、SOLAR TECH ENERGY、PERFECT SOURCE TECHNOLOGY、
DS TECHNOLOGY、EVER ENERGY、MING HWEI ENERGY、E-TON SOLAR TECH、
GINTECH ENERGY

【韓国】
LGエレクトロニクス、SHINSUNG SOLAR ENERGY、LUXCO、TOPSUN、
HYUNDAI HEAVY INDUSTRIES、ハンソルテクニクス、ハンファQセルズ

【その他】
米国からはアメリソーラー、SUNPOWER、ドイツからはコナジー、RECOM、カナダからはカナディアン・ソーラーなどが出展していました。

 さて、これだけのメーカーの太陽電池、特定の国というのではなく、例えば変換効率を額面どおり信じて良いものかどうか、正直迷います。長期の信頼性も同様です。1年後は?、2年後は?、10年、20年経ったらどうなのでしょうか?

 25年保証といっても、マンションの瑕疵担保と同じで、保証期間中に会社が無くなっていたら元も子もありません。そろそろ購入時の値段の安さだけでなく、長期の信頼性という点にスポットライトが当たっても良いのではないでしょうか。

編集顧問:川尻多加志

 

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